借金返済 [公開日]2017年12月15日[更新日]2021年11月15日

亡くなった親が借金を残していた!子供に返済義務はあるのか?

親が死亡して相続が開始すると、親の財産は相続人に引き継がれます

「財産」には、積極財産(不動産、預貯金、株式のようなプラスの財産)と消極財産(借金、保証債務、税金滞納、健康保険料の滞納などのようなマイナスの財産)の2つがあり、相続人は、そのどちらもすべて引き継ぐことになります。

では、子供が相続した親の借金は、全て支払わなければならないのでしょうか?
また、親の借金の存在を知らなかった場合にはどうなるのでしょうか?

ここでは、「死んだ親に借金があった!」という方に向けて、親の借金を死後に子供が相続する義務・支払う義務があるのかどうかを解説します。

1.借金と相続についての基礎知識

ここからは、分かりやすいように、積極財産を「財産」、消極財産を「借金」という言葉を使って説明します。

相続は、遺言がない限り、法定相続人が法定相続分に従って相続します。

不動産や預貯金、株式など多くの財産は、共同相続人間の共有もしくは準共有となりますので、遺産分割によってその分け方を決めます。

一方、借金は、法定相続分に応じて、当然に分割して相続することになっています。
つまり、被相続人である夫の借金2,000万円を妻と子供2人で相続する場合、妻は1,000万円、子供たちはそれぞれ500万円の借金を相続することになります。

債権者は、それぞれの相続人が相続した額しか返済を受けることができず、それぞれの相続分以上の金額を一人に請求することはできないことになっています。
(上の例では、妻に2,000万円全額を請求することや、一人の子供に1,000万円を請求することはできません。)

2.親の借金を相続しないための方法

では、親の借金は必ず法定相続分に応じて相続しなければならないのかというと、そうではありません。
親の借金を相続しないための方法は存在します。

(1) 相続放棄する

相続放棄とは、相続が開始したあとに、相続人となることを拒否する意思表示です。
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったことになります。

注意しなければならないのは、借金だけでなく、プラスの財産も一切引き継ぐことができなくなることです。

借金だけ放棄して財産はもらう、という「いいとこ取り」はできません。

(2) 限定承認する

限定承認とは、相続によって得た財産の範囲でのみ債務の支払いをすることを条件として、相続を承認することです。
限定承認は、相続人全員で行う必要がありますので、共同相続人のうち1人でも反対しているとできません。

たとえば、被相続人に1,000万円の財産と3,000万円の借金があった場合、相続を単純承認してしまうと、相続人は3,000万円の借金を引き継ぎます。
被相続人の財産1,000万円を借金の返済に充てても残る借金2,000万円は相続人が自分の財産から返済していかなければならないことになります。

一方、限定承認をすると、相続人は、1,000万円の資産で借金を返せば、残りの借金2,000万円については、支払う義務を免れることができます。

【相続放棄と限定承認の注意点】
相続放棄・限定承認は、「自己のために相続が開始したことを知ったとき」から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述することによって行います。この3ヶ月を「熟慮期間」と言います。
この熟慮期間の起算点となる「自己のために相続が開始したことを知ったとき」とは、原則として、①相続人が相続開始の原因事実を知り、②それにより、自己が相続人になったことを覚知したときです。
しかし、当初の3ヶ月の熟慮期間が経過する前に、家庭裁判所に「熟慮期間の伸長の申立」をしておくと、その理由が相当であれば、「〇月〇日まで伸長する」と決定してくれます。
なお、3ヶ月の熟慮期間が経過する前であっても、遺産を「処分」してしまうと、相続を単純承認したとみなされ、そのあとで相続放棄や限定承認をすることができなくなるのでご注意ください。

(3) 生前対策として親に自己破産を行ってもらう

老親に借金はあるけれど財産がほとんどないことが明らかな場合や、親の事業が破綻して多額の借金が残ったという場合には、借金を残さないように生前に自己破産などの債務整理してもらうこともひとつの方法です。

借金の返済を死ぬまで続けるというのも大変なことです。
親にとっても、早めに債務整理した方が少しでも余裕をもって余生を過ごすことができるでしょう。

特に親に破産を勧めるのは気が引けるかもしれませんが、一考の余地はあるでしょう。

3.親の借金を知らなかった場合

では、相続が開始して親の財産を調べ上げるまで、親の借金の存在を知らなかった場合はどうなるのでしょうか。

(1) 時効の援用を検討

相続人に相続された借金についても、時効は存在します(主観的起算点から5年または客観的起算点から10年)。

親の死後、暫く経った後に見知らぬ債権者から請求が来た場合、その借金は時効が成立しているかもしれません。

ただし、差押えや債務の承認などにより借金の時効が更新している可能性もありますので、時効が成立している可能性がある借金が存在していたならば、一度弁護士へ相談してみることをお勧めします。

[参考記事]

借金の時効が成立する条件と、時効の援用ができないケース

(2) 相続後に借金の存在を知った場合

時効が成立していなくても、「親には財産や借金がないと思い込んで、相続放棄をせずに3ヶ月の熟慮期間が過ぎた後、突然借金の支払いの催促がきて、親に借金があったということが分かる」ということがあります。

最高裁判所昭和59年4月27日判決では、このような状況の救済として、「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるとき」には、「相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時(※注:借金の存在を知ったとき)又は通常これを認識しうべき時」から3ヶ月以内に相続放棄の申述を行えば、受理が認められると判示しました。

つまり、熟慮期間が過ぎた後でも、場合によっては(借金の存在を認識してから3ヶ月以内なら)相続放棄が可能なのです。

【財産があることは知っていたが借金を知らなかった場合】
上記の最高裁判所判決は、「相続財産が全くないと信じた人」、つまり、「財産も借金もないと思い込んでいた人」が対象です。そうすると、財産があると知ってはいたけど、借金はないと思っていて、相続放棄をしていなかった人は、上記の最高裁判所判例では救済されません。
こういった人については、「借金を知らなかったのもやむを得なかった」及び「多額の債務があることを知っておれば、相続開始後すぐに相続放棄をしたはずであることはあきらか」ならば、借金を知ったときから3ヶ月間は相続放棄をすることができるとされました(大阪高等裁判所平成14年7月3日)。
また、東京高等裁判所平成19年8月10日判決では、「相続人において被相続人に積極財産があると認識していてもその財産的価値がほとんどなく、一方消極財産について全く存在しないと信じ、かつそのように信ずるにつき相当な理由がある場合にも妥当する」と判示しています。

(3) 親の借金を知らずに「処分」行為をしていた場合

先述のとおり、相続財産を「処分」してしまうと、単純承認したとみなされるため、その後に相続放棄をすることはできなくなります。

これについて、借金を知らずに遺産を「処分」してしまった人も救済する動きが高等裁判所の判例であります。

高松高等裁判所平成20年3月5日判決

これは、相続人が、債権者に対して、被相続人の債務の有無を照会したところ、債務がないという誤った回答がされたために、借金がないと信じて預貯金を解約するなどの「処分」を行ったあと、1年以上が過ぎてから、実は被相続人が連帯債務者や連帯保証人になっていたということが判明した事案です。

この事案では、「相続人が自己のために開始した相続につき単純若しくは限定の承認をするか又は放棄をするかの決定をする際の最も重要な要素である遺産の構成、とりわけ被相続人の消極財産の状態について、熟慮期間内に調査を尽くしたにもかかわらず、被相続人の債権者からの誤った回答により、相続債務が存在しないものと信じたため、限定承認又は放棄をすることなく熟慮期間を経過するなどしてしまった場合」には、「錯誤(※注:遺産の構成に関する要素の錯誤)を理由として単純承認の効果を否定して限定承認又は放棄の申述受理の申立てをすることができる」と判示しました。

ただし、これは、債権者が誤回答をしたという特殊な事案でもあるので、通常の事案に必ずしも適用されるとはかぎりません。

借金の発覚と、熟慮期間の起算点の問題および「処分」に関する問題は、難しいものです。

ただ、上記の判例の傾向から、3ヶ月が過ぎて借金が発覚した、しかも「処分」に当たる行為があるという場合でも、絶対に救済されないということではありませんので、諦めずに弁護士に相談してみるべきでしょう。

4.被相続人の借金を調査する方法

上記のように、後から借金が発覚した場合、相続放棄が認められることもありますが、絶対とは言えません。

そこで、熟慮期間中に被相続人の情報を調べ、借金の有無まで知った上で、相続するか・相続放棄するか・限定承認するかを決めた方が安全でしょう。

その人が、銀行やサラ金などにいくら借金しているか、滞納しているかは「信用情報」を閲覧すると分かります。

通常、借金の情報はとても高度なプライバシーであり、本人しか取得することはできません。親子でも、夫婦でもお互いの信用情報を見ることはできません。

しかし、相続人は、被相続人の死後(相続開始後)、被相続人の信用情報を取得することができます。相続が開始したら被相続人の借金は相続人の借金になるので、これはある意味当然のことです。

信用情報機関は、下記の3つです。情報が重複していることもありますが、全部から情報を取得した方が良いでしょう。

  • CIC(株式会社シー・アイ・シー)
  • JICC(株式会社日本信用情報機構)
  • KSC(全国銀行個人信用情報センター)

[参考記事]

信用情報の開示方法と見方

5.借金問題の解決は泉総合法律事務所へ

親が借金を残していた場合でも、子供が必ず借金を相続しなければならないということはありません。
相続を放棄し借金を受け継がない手段はありますので、どうするべきか分からない場合には専門家に相談しましょう。

借金問題については、どのようなケースであれ早めに解決しておくことが望ましいです。
債務整理は、泉総合法律事務所にお任せください。相談は何度でも無料ですので、まずはお気軽にご連絡いただければと思います。

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