借金返済 [公開日] [更新日]

亡くなった親が借金を残していた!子供に相続する義務はあるのか?

亡くなった親が借金を残していた!子供に相続する義務はあるのか?

親が死亡して相続が開始すると、親の財産は相続人に引き継がれます。

では、親の借金は相続しなければならないのでしょうか?借金の存在を知らなかった場合にはどうなるのでしょうか?
ここでは、親の借金を子が相続する義務があるのかどうかを解説します。

1.借金と相続についての基礎知識

相続とは、一身専属権を除き、被相続人の地位や財産を包括的に承継することです。

「財産」には、積極財産(不動産、預貯金、株式のようなプラスの財産)と消極財産(借金、保証債務、税金滞納、健康保険料の滞納などのようなマイナスの財産)の2つがあり、相続人は、そのどちらもすべて引き継ぐことになります。

ここからは、分かりやすいように、積極財産を「財産」、消極財産を「借金」という言葉を使って説明します。

(1) 借金と相続の関係

相続は、遺言がない限り、法定相続人が法定相続分に従って相続します。不動産や預貯金、株式など多くの財産は、共同相続人間の共有もしくは準共有となりますので、遺産分割によって、その分け方を決めます。

一方、借金は、法定相続分に応じて、当然に分割して相続することになっています。

つまり、被相続人である夫の借金1,000万円を妻と子供2人で相続する場合、妻は1,000万円、子供たちはそれぞれ500万円の借金を相続していることになります。債権者は、それぞれの相続人が相続した額しか返済を受けることができず、それぞれの相続分以上の金額を請求することはできないことになっています。

2.親の借金を相続しないための方法

(1) 相続放棄する

相続放棄とは、相続が開始したあとに、相続人となることを拒否する意思表示です。

相続を放棄すると、最初から相続人ではなかったことになります。借金を引き継ぐことはありませんが、財産も一切引き継ぐことができなくなります。

借金だけ放棄して、財産はもらうという「いいとこ取り」はできません。

(2) 限定承認する

限定承認とは、相続によって得た財産の範囲でのみ債務・遺贈の支払いをすることを条件として、相続を承認することです。
限定承認は、相続人全員で行う必要がありますので、共同相続人のうち1人でも反対しているとできません。

たとえば、被相続人に1,000万円の財産と3,000万円の借金があった場合、相続を単純承認してしまうと、相続人は、3,000万円の借金を引き継ぎます。被相続人の財産1,000万円を借金の返済に充てても残る借金2,000万円は相続人が返済していかなければならないことになります。

一方、限定承認をすると、相続人は、1,000万円の資産で借金を返せば、残りの借金2,000万円については、支払う義務を免れることができます。

(3) 相続放棄と限定承認の注意点

①3ヶ月以内に手続しなければならない

相続放棄、限定承認は、「自己のために相続が開始したことを知ったとき」から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述することによって行います。この3ヶ月を「熟慮期間」と言います。

この熟慮期間の起算点となる「自己のために相続が開始したことを知ったとき」とは、原則として、①相続人が相続開始の原因事実を知り、②それにより、自己が相続人になったことを覚知したときです。

つまり、自分の親が亡くなったことは、相続が開始する原因事実であり、これによって子である自分が相続人になったことは当然に分かることですから、「自己のために相続が開始したことを知ったとき」とは、親の死亡時です。

しかし、たとえば、幼いころに両親が離婚して、父親とは長年にわたって音信不通だったというような場合、父親が死亡しても、それを知らないこともありえます。でも、いくら音信不通であっても、子は、親の法定相続人です。ですから、債権者が実子の居場所をつきとめて借金の請求をしてくるかもしれません。

また、親戚や知人から何かのきっかけで「父親が死亡した」ということを知らされるかもしれません。このような場合は、債権者からであれ、親戚からであれ、子が親の死を知ったときが、「自己のために相続が開始したことを知ったとき」になります。

②熟慮期間の伸長の申立

被相続人が事業をしていたなどの理由で、財産と借金の関係がたくさんあったり、複雑だったりする場合や、疎遠だったために財産や借金について、相続人がよく知らなかったりする場合には、相続を承認するか放棄するかを3ヶ月では判断しきれないことがあります。

その場合には、当初の3ヶ月の熟慮期間が経過する前に、家庭裁判所に「熟慮期間の伸長の申立」をしておく必要があります。

熟慮期間の伸長の申立は、こういう理由があるので、熟慮期間をあと2ヶ月間伸長してくださいとか、6か月間伸長してくださいというように、伸長が必要な理由と伸長して欲しい期間を記載して行います。
家庭裁判所は、その理由が相当であれば、「〇月〇日まで伸長する」と決定します。

③法定単純承認事由

民法第921条には、「次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす」として、3つの法定単純承認事由を定めています。

  1. 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為、及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることはこの限りではない。
  2. 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったこと
  3. 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを費消し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続放棄したことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

上記の中で、最も要注意なのは、1号の「処分」です。

被相続人が亡くなったとき、法定相続人は、①単純相続するか、②限定承認するか、③相続放棄をするかを決めるのですが、熟慮期間内に②限定承認、③相続放棄のいずれも選択しなかった場合には、①を選択したことになります。これは、上記2号が適用されるからです。

しかし、3ヶ月の熟慮期間が経過する前であっても、遺産を「処分」してしまうと、上記1号が適用されてしまい、相続を単純承認したとみなされるので、そのあとで相続放棄や限定承認をすることができなくなるのです。

「処分」には、遺産の売却や物品の損壊などが含まれますが、過失による軽微な損壊などは「処分」にあたらないとされています。

では、被相続人の預金を解約して、葬式費用や火葬費用、墓石費用、仏壇購入費用などに使うことは「処分」にあたるのでしょうか?
この点については、確立した最高裁判所の判例はありませんが、下記のような高等裁判所の判例があります。

・大阪高等裁判所平成14年7月3日

相続人が、被相続人の貯金を解約して、その貯金と香典から葬儀費用を払い、その残りで仏壇と墓石を購入した(購入代金の不足金は相続人が負担した)あとに、被相続人が他人の保証人になっていた(保証債務があった)ということを知ったという事案について、下記のとおり判断しています。

① 相続財産から葬儀費用を支出する行為は、「処分」にあたらない。
② 「一家の中心たる夫ないし父親が死亡した場合に、その家に仏壇がない場合にこれを建立して死者を弔うこともわが国の慣例」であること、「購入した仏壇及び墓石は、いずれも社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上、相続人らが香典及び貯金からこれらの購入費用を支出したが不足したため、一部は自己負担したこと」などを考慮して、「相続人らが、貯金を解約し、その一部を仏壇及び墓石の購入費用に充てた行為が、明白に「処分」に当たるとは断定できない」としました。

この判例では、仏壇及び墓石の購入については、「処分」に当たらないとはしていますが、断定的な判断とまでは言えず、事情によってあいまいな部分もあるので、相続放棄するかもしれない場合には、仏壇や墓石などを被相続人の財産から購入するのは控えた方が無難でしょう。

(3) 生前対策として、親に自己破産を行ってもらう

老親に借金はあるけれど、財産がほとんどないことが明らかな場合や、親の事業が破綻して多額の借金が残ったという場合には、借金を残さないように生前に自己破産してもらうこともひとつの方法です。

少ない年金の中から借金の返済を死ぬまで続けるというのも大変なことです。親にとっても、早めに自己破産した方が、少しでも余裕をもって余生を過ごすことができるでしょう。

なお、自己破産後に貯まった預貯金は相続することができます。

3.親の借金を知らなかったら?

親の借金を知らなかったら?

(1) 3ヶ月過ぎてから借金の存在を知った場合

親には、借金がないと思い込んで、相続放棄をせずに、3ヶ月が過ぎたあと、突然、借金の支払いの催促がきて、親に借金があったということが分かることがあります。

最高裁判所昭和59年4月27日判決では、このような状況の救済として、「相続財産が全くないと信じ、かつ被相続人の諸状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人においてこのように信じるにつき相当な理由があった場合」には、「相続財産の全部又は一部の存在を認識したとき(借金の存在を知ったとき)または通常これを認識しうべき時」から3ヶ月以内に相続放棄の申述を行えば、受理が認められると判示しました。

(2) 財産があることは知っていたが借金を知らなかった場合

上記の最高裁判所判決は、「相続財産が全くないと信じた人」、つまり、「財産も借金もないと思い込んでいた人」が対象です。そうすると、財産があると知ってはいたけど、借金はないと思っていて、相続放棄をしていなかった人は、上記の最高裁判所判例では救済されません。

こういった人については、下記のような高等裁判所判例があります。

・大阪高等裁判所平成14年7月3日

上記で紹介した判決ですが、相続人が、保証債務の存在を知ったのは、3ヶ月の熟慮期間が過ぎたあとでした。この相続人は、相続財産である貯金の存在は、3ヶ月以内に知っています。そこで、相続放棄が認められるのかが争いになりました。

この点については、保証債務を知らなかったのもやむを得なかったこと及び「多額の債務があることを知っておれば、相続開始後すぐに相続放棄をしたはずであることはあきらか」であることから、保証債務を知ったときから3ヶ月間は相続放棄をすることができるとされ、相続放棄を受理してもらうことができました。

・東京高等裁判所平成19年8月10日判決

上記の最高裁判所判例は、「相続人において被相続人に積極財産があると認識していてもその財産的価値がほとんどなく、一方消極財産について全く存在しないと信じ、かつそのように信ずるにつき相当な理由がある場合にも妥当する」と判示しています。

(3) 親の借金を知らずに「処分」行為をしていた場合

上記のとおり、相続財産を「処分」してしまうと、1号が適用されて、単純承認したとみなされるため、その後に相続放棄をすることはできなくなります。

上記の最高裁判所判決は、「財産も借金もないと思い込んでいた」から、相続放棄をせずに3ヶ月以上経ってしまい、単純承認したとみなされてしまった人を2号によって救済する判例です。

借金があると知らない状況でも、財産を少額でも「処分」してしまった人は、1号が適用されて単純承認したことになるので、その後に借金の存在が判明しても、上記の最高裁判所判例が適用されず、相続放棄が認められないことになります。

もっとも、最近では、高等裁判所の判例で、借金を知らずに遺産を「処分」してしまった人も救済する動きがあります。

・高松高等裁判所平成20年3月5日判決

これは、相続人が、債権者に対して、被相続人の債務の有無を照会したところ、債務がないという誤った回答がされたために、借金がないと信じて、預貯金を解約するなどの「処分」を行ったあと、1年以上が過ぎてから、実は、被相続人が、連帯債務者や連帯保証人になっていたということが判明した事案です。

この事案では、「相続人が自己のために開始した相続につき単純若しくは限定の承認をするか又は放棄をするかの決定をする際の最も重要な要素である遺産の構成、とりわけ被相続人の消極財産の状態について、熟慮期間内に調査を尽くしたにもかかわらず、被相続人の債権者からの誤った回答により、相続債務が存在しないものと信じたため、限定承認又は放棄をすることなく熟慮期間を経過するなどしてしまった場合」には、「錯誤(遺産の構成に関する要素の錯誤)を理由として財産処分及び熟慮期間経過による法定単純承認の効果を否定して改めて相続放棄の申述受理の申立をすることができる」と判示しました。

ただし、これは、債権者が誤回答をしたという特殊な事案でもあるので、通常の事案に必ずしも適用されるとはかぎりません。

(4) 弁護士に相談を

借金の発覚と、熟慮期間の起算点の問題および1号の「処分」に関する問題は、難しい問題です。
ただ、上記の判例の傾向から、3ヶ月が過ぎて借金が発覚した、しかも「処分」に当たる行為があるという場合でも、絶対に救済されないということではありませんので、諦めずに弁護士に相談してみるべきでしょう。

4.被相続人の借金を調査する方法

上記のように、3ヶ月を過ぎてから借金が発覚した場合、相続放棄が認められることもありますが、絶対とは言えません。

そこで、熟慮期間中に被相続人の信用情報を調べ、借金の有無まで知った上で、単純相続するか、相続放棄するか、限定承認するかを決めた方が安全でしょう。

信用情報とは、経済的な信用に関する情報のことで、その人が、銀行やサラ金などにいくら借金しているか、滞納しているかどうかが分かります。借金の情報はとても高度なプライバシーであり、本人しか取得することはできません。親子でも、夫婦でもお互いの信用情報を見ることはできません。

しかし、相続人は、相続開始後、被相続人の信用情報を取得することができます。相続が開始したら、被相続人の借金は、相続人の借金になるので、当然のことです。

信用情報機関は、下記の3つです。情報が重複していることもありますが、全部から情報を取得した方がよいでしょう。

・CIC(割賦販売法・貸金業法指定信用情報機関)
・JICC(日本信用情報機関)
・全国銀行個人信用情報センター

参考:「信用情報」の基礎知識~自分の信用情報を調べる方法とその手順

5.借金問題の解決は泉総合法律事務所へ

親が借金を残していた場合でも、子供が借金を相続しなければならないということはありません。相続を放棄し借金を受け継がない手段はありますので、もしどうするべきか分からない場合には専門家に相談しましょう。

借金問題については、どのようなケースであれ早めに解決しておくことが望ましいです。債務整理は泉総合法律事務所にお任せください。相談は何度でも無料ですので、まずはお気軽にご連絡いただければと思います。

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