借金返済 [公開日]2020年5月14日

違法な給料ファクタリングに注意|最新の金融庁見解や裁判例を紹介

新型コロナウイルスの影響により、日々の生活費の資金繰りに困る人が増えてきています。

そのような人にとって、勤務先の会社からもらえる給料を事実上「前借り」できる給料ファクタリング(給与ファクタリング)は、お手軽で魅力的なサービスに映るかもしれません。

しかし、給料ファクタリング業者には違法な給料ファクタリングを行っているところもあります。
こうした給料ファクタリング業者を利用することは絶対に避けなければなりません。

特に、最近金融庁裁判所によって、給料ファクタリングに関する法律問題についての重要な見解が示されました。

地方裁判所レベルの判決なので、今後上級審や他の裁判所で異なる規範に基づく判決が下される可能性は残っていますが、しばらくの間は同見解に基づいて運用されていくことになるものと思われます。

金融庁と裁判所がどのような考え方をとっているのかについて正しく理解しておく必要があります。

1.給料ファクタリングとは?

まず、給料ファクタリングの仕組みについて簡単におさらいしておきましょう。

(1) 給料ファクタリングの仕組み

給料ファクタリングは、利用者が勤務先の会社に対して有する将来の給与債権を給料ファクタリング業者が買い取るという、債権譲渡の仕組みにより行われます。

債権譲渡の際、給料ファクタリング業者から利用者に対して債権譲渡の代金が支払われます。
この代金は、給料の額面から手数料を控除した金額に設定されるので、手数料相当額が給料ファクタリング業者の利益になります。

そして、利用者が勤務先の会社から給与の支払いを受けたら、その全額を給料ファクタリング業者に支払うことになります。

このように、利用者は手数料の支払いと引き換えに、事実上一定の期間給料の前借りができるというのが給料ファクタリングの仕組みです。

(2) 給料ファクタリングは2社間ファクタリングのみ

なお、一般にファクタリングには「2社間ファクタリング」「3社間ファクタリング」の2種類があります。

2社間ファクタリングとは、ファクタリング業者と利用者の間のみでファクタリング契約を締結する一方、譲渡される債権の債務者(勤務先)はファクタリングに関与しないスキームです。

2社間ファクタリングでは必然的に、譲渡される債権の支払いは債務者(勤務先)から利用者に対して行われ、その後利用者が給料ファクタリング業者に対する支払いを行うという流れになります。

これに対して3社間ファクタリングとは、ファクタリング業者・利用者・譲渡される債権の債務者(勤務先)の3者間でファクタリング契約を締結するスキームです。

3社間ファクタリングでは、譲渡される債権の支払いは債務者(勤務先)からファクタリング業者に対して直接行われます。

ファクタリング業者にとっては、利用者を経由するリスクがなくなるため、手数料が比較的安く設定される傾向にあります。

しかし、給料ファクタリングにおいては、3社間ファクタリングを行うことは法律上認められていません。
労働基準法24条1項は、使用者(会社)は労働者に対して直接賃金を支払わなければならないものとされています。

つまり、3者間の給料ファクタリングにより会社が給料ファクタリング業者に対して直接給料を支払うことは、同規定に違反するものと考えられます。

したがって、給料ファクタリングは2社間ファクタリングの形態のみが認められているということになります。

2. 給料ファクタリングは貸金業?

給料ファクタリングについて法律上の最も大きな問題は、「給料ファクタリングが貸金業に該当するかどうか」という点にあります。

この論点については、給料ファクタリングの実質に着目した議論が展開され、以前からさまざまな見解が提示されていました。

(1) 給料ファクタリングは経済的には貸付けと同じ

給料ファクタリングは、形式的には債権譲渡により行われます。

しかしその実態は、以下のように捉えることができます。

①給料ファクタリング業者から利用者に対して貸付けが行われる
②一定期間が経過した後に、利用者が給料ファクタリング業者に対して手数料という名目の利息を上乗せして返済する

この実態に着目して、給料ファクタリングは貸金業に該当するという見解が有力に主張されていました。

これに対して、貸金業に関する規制が及んでしまうとビジネスが成り立たない給料ファクタリング業者側は、給料ファクタリングはあくまでも債権譲渡であり、貸金業には該当しないという主張をしていました。

(2) 金融庁の見解

上記の議論について、2020年3月5日、まず金融庁がノーアクションレターへの回答の中で見解を示しました。

ノーアクションレターの質問文:
https://www.fsa.go.jp/common/noact/ippankaitou/kashikin/02a.pdf

金融庁の回答:
https://www.fsa.go.jp/common/noact/ippankaitou/kashikin/02b.pdf

金融庁は、給料ファクタリングは「経済的に貸付けと同様の機能を有している」ことを理由に、貸金業に該当するとしました。

貸金業法に関する規制権限を有する金融庁が、公式にこのような見解を示したことは大きな意義を持つといえます。

(3) 東京地裁の裁判例

さらに同月24日、東京地裁が2件の給料ファクタリングに関する訴訟について相次いで判決を下しました。

東京地裁も金融庁と同様、給料ファクタリングが貸付けと同様の機能を有することを理由として、貸金業に該当すると判断しました。

今後上級審や他の裁判所で異なる規範に基づく判決が下される可能性は残っています。
しかし、東京地裁の2つの判決は、給料ファクタリングの貸金業該当性について明示的に判示した大きな意義を持つ先例として、重要な意味を持つことは間違いありません。

このように、金融庁と裁判所という2つの公的機関が給料ファクタリング=貸金業という図式を示したことは、実務上非常に大きな意味を持っています。

今後は、給料ファクタリングは貸金業に該当することを前提として、実務の運用を考えていく必要があるでしょう。

3.給料ファクタリングが貸金業に該当する場合

給料ファクタリングが貸金業に該当する場合、貸金業に関する規制の対象となります。

典型的に問題となるのは、貸金業の登録・出資法の上限金利の2点です。

(1) 貸金業者としての登録が必要

貸金業を行うためには、貸金業者としての登録を受ける必要があります(貸金業法3条1項)。

もし無登録で貸金業を行った場合は違法行為となり、刑事罰の対象となります(同法11条1項、47条2号)。

(2) 出資法の上限金利規制が適用される

また、給料ファクタリングが貸付けに該当するならば、出資法5条2項に規定される上限金利規制の適用を受けます。

この場合、給料ファクタリングの手数料を年率に引き直した場合に、20%を超えるときは違法な高金利ということになります。

4.違法な給料ファクタリングについて

違法な給料ファクタリングの代表例としては、手数料の金額が出資法の上限金利を超過している場合が挙げられます。

以下、違法な給料ファクタリングの事例と、給料ファクタリングが違法とされた場合の法的な効果について解説します。

(1) 違法な給料ファクタリングの事例

手数料が出資法の上限金利を超過して違法となる給料ファクタリングの事例を見ていきましょう。

以下は既に解説した東京地裁の判決で問題となった事例の一つです。

譲渡対象:7万円の給与債権
債権譲渡代金:4万円
債権譲渡から4日後に、7万円の給与全額を給料ファクタリング業者に支払う

これは、利用者が給料ファクタリング業者から4万円を4日間借りて、7万円にして返す取引と同義です。
この場合、利息は4日間で3万円、元本に対して75%ということになります。

これを年率に引き直すと、なんと6843.5%となります。

これは出資法の上限金利である年率20%を大きく超過しており、違法な給料ファクタリングということになります。

(2) 違法となる場合の法的な効果

給料ファクタリングが違法となる場合、どのような法的な効果が生じるのでしょうか。

違法な給料ファクタリングの被害に遭ってしまった方にとっては、給料ファクタリング業者に対してどのような主張をするかを検討する上での重要なポイントになりますので、よく理解しておいて頂ければと思います。

手数料が年率換算で109.5%を超える場合には給料ファクタリング契約が無効に

給料ファクタリングの手数料が年率換算で109.5%を超える場合には、給料ファクタリング契約は無効となります(貸金業法42条1項)。

したがって、給与債権は利用者の元にある状態のままということになりますので、給料ファクタリング業者に対して給与相当額を支払う必要はありません。
また、既に給与相当額を支払ってしまった場合には、その全額の返還を請求することができます。

利用者に支払われた債権譲渡代金が不法原因給付として返還不要に

給料ファクタリング契約が無効となる場合、利用者は給料ファクタリング業者から受け取った債権譲渡代金を返還しなければならないのが原則です。

ところが、東京地裁の判決によれば、刑事罰の対象となる違法な給料ファクタリングについては、給料ファクタリング業者から利用者に対して支払われた債権譲渡代金は「不法原因給付」(民法708条)になるとされています。

不法原因給付をした者(=給料ファクタリング業者)は、給付の目的物(=債権譲渡代金)の返還を請求することができません。
したがって、利用者は給料ファクタリング業者に対して債権譲渡代金を返還する必要がありません

なお、利用者が既に給料ファクタリング業者に対して、任意で債権譲渡代金を返還してしまった場合には、その代金を取り戻すまではできないことに注意しましょう。

上限金利を超過した分の手数料は返還を請求できる

仮に給料ファクタリング契約が無効とならない場合であっても、手数料が出資法上の上限金利を超える場合(年率換算で20%超~109.5%以下)には、上限金利を超過した分の手数料は過払い金として、給料ファクタリング業者に対して返還を請求することができます。

給料ファクタリング業者は刑事罰の対象に

さらに、貸金業の登録なく給料ファクタリングを行ったり、違法な手数料を設定した給料ファクタリングを行ったりした業者は、刑事罰の対象となります。

それぞれの場合についての法定刑は以下のとおりです。

違反事由 法定刑
無登録での貸金業 10年以下の懲役もしくは3000万円以下の罰金またはこれを併科(貸金業法47条2号)
上限金利超過(20%超109.5%以下) 5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはこれを併科(出資法5条2項)
上限金利超過(109.5%超) 10年以下の懲役もしくは3000万円以下の罰金またはこれを併科(出資法5条3項)

5.違法な給料ファクタリングの被害にあったら弁護士に相談

もし違法な給料ファクタリングの被害に遭ってしまったら、すぐに弁護士に相談してください。

以前は給料ファクタリングの法的な位置づけが曖昧だったため、グレーな給料ファクタリングビジネスが横行し、利用者が破産に追い込まれてしまうなどの事例も多くありました。

[参考記事]

給料ファクタリングによる破産も弁護士へ相談できる?

しかし、今は金融庁や裁判所により給料ファクタリングが貸金業に該当するとの見解が示されています。
そのため、適切に対処すれば給料ファクタリングの支払い負担を免れることができる可能性があります。

弁護士は、貸金業法その他の法令の内容を踏まえて、違法な給料ファクタリングの被害に遭ってしまった方が業者に対して正しい権利を主張することをサポートしてくれます。
また、給料ファクタリング業者との交渉の矢面に全面的に立ち、依頼者の精神的な負担を軽減してくれます。

一人で思い詰めることなく、お早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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