年金担保融資は自己破産しても免責されない?

借金返済

突然の病気やケガで高額な医療費や自宅の改装資金が必要となった…

このように、定年退職で年金生活となった後にも急な出費などで手元にお金がないということが起こりえます。しかし、年金生活者などの借金は、一般の方よりも難しい場合が少なくありません。

そのため、高齢者などがヤミ金や詐欺の被害に遭ってしまうことがあります。

そのような事態を防ぐために、高齢者向けの公的融資制度があります。医療福祉機構が行っている年金担保融資もそのひとつです。

しかし、年金担保融資には、「毎回の年金手取額が減ってしまう」、「債務整理しても返済義務がなくならない」といった大きなリスクがあります。

実際にも年金担保融資を受けたことが理由で、逆に生活破綻となった人も少なくありません。

そのため、日本弁護士連合会などの諸団体から制度廃止の声があがり、平成 22 年 12 月の閣議決定において、廃止することが既に決定されています。

今回は、年金担保融資とそのリスクについて解説します。

1.年金担保融資とは

年金などを担保にお金を借り入れることは、国民年金法や厚生年金保険法で禁止されています。この唯一の例外が独立行政法人医療福祉機構による年金担保融資です。

収入の少ない高齢者は、緊急の資金が必要となったときに金融機関から借り入れることが難しい場合が少なくありません。

そのため、高齢者が高利貸し(ヤミ金)被害に遭うことを予防する目的で1975年に設立されたのが、年金担保融資制度です。

冒頭で述べたように年金担保融資は、既に廃止がきまっていますが、代替制度が創設されないことなどを理由に、現在でも事業は継続されています。

なお、近年では、年金担保融資を謳った詐欺やヤミ金業者による貸付が横行しています。

年金を担保に融資することができるのは、医療福祉機構だけなので、悪徳業者などに騙されないように注意してください。

(1) 年金担保融資を利用できる年金

年金担保融資を利用することができるのは、以下の年金証書を持ち受給中の人に限られます。

  • 国民年金・厚生年金保険年金証書
  • 国民年金証書
  • 厚生年金保険年金証書
  • 船員保険年金証書(平成22年1月1日以降の事故による船員保険の障害・遺族年金は融資の対象外)
  • 労働者災害補償保険年金証書

なお、次の年金は年金担保融資の対象とはならないので注意が必要です。

  • 厚生年金基金
  • 国民年金基金
  • 確定給付企業年金
  • 確定拠出年金から支払われる年金
  • 老齢福祉年金
  • 特別障害給付金
  • 石綿健康被害救済法に基づく特別遺族年金

各種共済年金や恩給も年金担保融資の適用対象外ですが、日本政策金融公庫の恩給・共済年金担保融資を受けることができます。

(2) 年金担保融資を利用できない場合

上に掲げた年金証書を持ち年金を受給しているときでも、次の場合には融資を受けることができません。

  • 融資を任意で繰り上げ返済した後、融資決定時の完済予定日に到達していないとき(平成26年12月1日以降に借入申込みをした人に限る)
  • 生活保護受給中である場合
  • 年金担保融資の利用中に生活保護を受給し、生活保護廃止から5年間を経過していない場合
  • 融資金の使途がギャンブルなどや公序良俗に反する目的の場合、または借入申込者の利益に明らかに反する場合
  • 年金の支給が全額停止されている場合
  • 同一の年金で借入金残高がある場合
  • 年金受給権者現況届または定期報告書が、未提出または提出遅延の場合
  • 特別支給の老齢厚生年金を受給した人で65歳時の年金決定手続き期間中の場合
  • 反社会的勢力に所属する者や反社会的勢力と関係を有する者または反社会的勢力に類する行為を行う者の場合

(3) 融資条件

年金担保融資の融資条件をまとめると次の表のとおりになります。

融資額 次の3つの要件を満たす額の範囲内

  • 10万円~200万円の範囲内(ただし、資金使途が「生活必需物品の購入」の場合は、10万円~80万円)
  • 受給している年金年額の0.8倍以内(所得税額に相当する額を除く)
  • 1回あたりの定額返済額の15倍以内
融資目的 保険・医療、介護・福祉、自宅改修、教育、冠婚葬祭、事業継続、債務整理、生活必需品の購入に限られる
返済利率
  • 年金担保融資:年1.9%(平成29年4月1日現在)
  • 労災年金担保融資:年1.2%(平成29年4月1日現在)
保証人の要否 連帯保証人(審査基準あり)が必要
なお、連帯保証人を用意できないときには、信用保証機関(公益財団法人年金融資福祉サービス協会)による信用保証制度を利用することも可能(保証料が必要)

(4) 返済方法

年金担保融資の返済は、債権者である「独立行政法人福祉医療機構」が債務者の年金を年金支給機関から直接受け取り、返済額を天引きした残額を債務者の口座に振り込む方法で行われます。

つまり、年金担保融資を利用すると、受け取れる年金額が返済分だけ必ず減ってしまいます。

返済は、借入金を受け取った月(融資実行月)の翌々月以降の偶数月からはじまります。

たとえば、2月に借入金を受け取った場合には4月から、5月に借入金を受け取った場合には、8月からの返済となります。

なお、請求後の初回支払いや、失業保険との調整などで随時払い(奇数月の年金支給)となった場合は、原則として返済充当は行われず、全額を受け取ることができます。

1回あたりの返済額は、「1万円以上年金支給額の1/3以下」の金額で、債務者が設定した金額となります。

2.知らないと怖い年金担保融資

一見すると非常に便利なように見える年金担保融資ですが、制度を正しく理解せずに安易に融資を受けると生活に大きな支障を来すこともあります。

(1) 年金担保融資が原因で生活破綻することも

年金制度は、定年退職などによって収入が減った高齢者などの生活を保障するための仕組みであり、そのために、差押え・債権譲渡が禁止されています。

しかし、年金担保融資を利用すれば、毎回の年金支給額が必ず減額されてしまいます。

したがって、年金担保融資を行うとき、融資よって生活破綻が生じないように信用状態の審査やカウンセリングなどの措置が講じられるべきですが、現在の仕組みでは、そのような仕組みは不十分です。

実際にも年金担保融資が原因で生活保護を申請せざる得なくなった人が存在します。

たとえば、厚生労働省の報告によれば、年金担保融資の返済が「生活破綻」に至り、生活保護を申請して認められた人数は、20008年度4,908人、2009年度6,053人、2010年度は5,471人であるとされています。

公式調査はその後されていませんが、2013年に毎日新聞が各地方自治体に行った取材によれば、2011年度以降の年金担保融資によって生活破綻する人の水準は横ばい状態が続いているとのことです。

(2) 年金担保融資は自己破産・個人再生しても免責されない

通常の借金は、どうしても返済できないときには自己破産などの債務整理によって解決することができます。自己破産をすれば、借金の返済義務は免除され、個人再生すれば借金が一部免除される場合があります。

しかし、年金担保融資は自己破産や個人再生をしても減免されない借金です。

たとえば、住宅ローンのような「担保のある借金」は、個人再生や自己破産しても返済義務がなくなることはありません。担保権者には、「別除権」という権利が認められているため、自己破産・個人再生に優先して債権を回収することができるからです。

年金担保融資の返済は、住宅ローンの場合と同様に、自己破産・個人再生の影響を受けません。また、住宅ローンであれば、担保を処分してもなお借金が残ったときには、残額は免責の対象となります。

しかし、年金受給権は、自己破産や個人再生をしても失うことはありません。

したがって、自己破産や個人再生をしても年金担保融資の返済は「完済するまで」ずっと続くことになります。実は、年金担保融資は債務整理との関係では非常にデメリットの大きい融資制度なのです。

(3) 年金担保融資で借金の借り換えができることの問題

また、年金担保融資は借金に一括返済を目的に利用することが認められています。実際にも、医療福祉機構のアンケート調査(平成28年度調査)によると、借金返済のために年金担保融資を受けた人は全体の約18%になるようです。

また、年金担保融資を受けた人の約50%は、銀行などからの借入金があるようです(医療福祉機構「年金担保貸付に関するアンケート調査(平成28年度)-調査報告書-」)。

たしかに、年金担保融資の返済利率は、銀行や消費者金融に比べるとはるかに低いので、正しく上手に利用できれば、有効な借り換えとなる場合もあるでしょう。

しかし、高齢者の多くは年金以外に収入がない場合も少なくありません。年金担保融資の借入額が多額なときや、「借金を早く返そう」と無理な返済額を設定したときには、日々の生活費に困ることも十分あり得ます。

消費者金融や銀行の場合には延滞できますが、返済額が強制天引きされる年金担保融資では延滞することができません。

通常の借金であれば、債務整理によって、返済額を減らしたり、返済義務を減免したりしてもらうことが可能です。実際、年金担保融資による借り換えよりも債務整理の方が有利というケースも少なくないでしょう。

そもそも、年金担保融資による借金の一括返済は、「年金は、生活の糧として保証すべきだから差押えを禁止する」とした法律の趣旨とも矛盾するといえます。

「消費者金融や銀行からの借金は返済」できても。年金担保融資の返済(天引き)のために「日々の生活が破綻」してしまえば、それは本末転倒ともいえます。

3.まとめ

近年では借金で悩んでいる高齢者の方が増えています。年金受給者の中には、「債務整理すると年金を差し押さえられる」、「自己破産すると年金の受給資格を失う」という誤解をもっている方も少なくありません。

しかし、自己破産などをしても年金が差し押さえられることも、受給資格を失うこともありません。借家住まいの方であれば自己破産してもほとんどデメリットがない場合も少なくありませんし、持ち家の方でも任意整理で解決できることがあります。債務整理すれば将来の利息はすべてなくなります。

また、債務整理ができないという場合でも、年金担保融資以外にも、社会福祉協議会の生活福祉資金といった公的貸付制度(無利息の貸付制度有)を利用して一時的な出費に対応する方法もあります。

借金でお困りのときには、借金問題の実績の豊富な弁護士にまずご相談ください。泉総合法律事務所にご相談いただければ、それぞれの状況に応じた適切なアドバイスを差し上げることができます。

債務整理コラム一覧に戻る