借金返済 [公開日]2018年1月31日[更新日]2019年10月28日

刑務所に入ったら借金はどうなる?|消滅時効・時効援用

刑務所に服役している人には、借金を抱えたまま逮捕され懲役刑となった方もいます。
実際、服役囚の間では「私の借金はどうなるのだろう」ということが話題となることもあるようです。

民法には「消滅時効」という制度があります。「借金を長期間返済しなければ返済義務がなくなる」ということを耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

では、服役が長期間にわたった場合には、時効期間は成立するのでしょうか?

以下、逮捕され刑務所に入ったら借金はどうなるのかについて解説します。

1.服役中の消滅時効の進行

結論から言えば、消費者金融やカード会社からの借金や携帯電話料金といった民事上の債権は、刑務所に服役している間も消滅時効の時効期間は進行します。

借金の場合、貸主・借主どちらかが商人であれば、商事債権として5年、どちらも商人でなければ10年の消滅時効にかかります(※)。
※なお、改正民放(2020年4月1日施行)では、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、権利を行使することができる時から10年間」が時効期間となります(債権の発生原因となった法律行為が施行日後になされた債権が、改正法の適用対象となりますので、弁済期が施行日以降であっても、契約日が施行日以前であった場合は、現行法のルールで処理されることになります)。

しかし、時効期間は、一定の事由が発生すると「中断」します。
「中断」というのは、それまで進行していた時効期間が振り出しに戻り、時効期間がゼロからもう一度進行するということです。

服役と時効の問題は、法律的に言えば、服役の事実が時効中断事由となるのか、という問題ということになります。

2.消滅時効の中断事由

しかし、時効の中断は、次に説明する4つの場合に限り発生するものであり、「服役」や「刑罰を科せられたこと」は、いずれも時効中断事由に該当しません。

言い換えれば、刑務所で服役中であっても借金の消滅時効は進行しますが、その間に、以下のような時効の中断事由が発生すれば、刑務所の中でも消滅時効は振り出しに戻り、ゼロから再びスタートすることになります。

この消滅時効の中断事由4つのうち3つ(下記(1)~(3)の事由)は、「債権者側からの権利行使」により発生します。

(1) 裁判上の請求

長期の延滞となると、債権者である消費者金融やカード会社などが訴訟で返済を請求してくることがあります。
この「貸金返還請求訴訟」が提起されると、借金の消滅時効は中断します。

債務者が服役中でも、民事訴訟を提起される可能性はあります。
そして、法律上の権利としては、服役中でもこの貸金返還請求訴訟に応じる(応訴する)ことは可能です。

しかし、「実際に借金していて返していない」のであれば、「過払い金」で借金がなくなるなどの例外的なケースを除いて、勝訴することは難しいでしょう。

また、ケースによっては、債権者が「貸金返還請求訴訟」=通常の訴訟ではなく、「支払督促」を申立てることもあります。

支払督促は、裁判よりも簡易に金銭債務を取り立てる裁判手続です。
支払督促の送達から2週間以内に債務者が異議を述べないときには、「訴訟で敗訴した場合」と同様の効果が生じます(異議を述べると通常訴訟に移行しますが、前述の通り、債務者にとって勝訴は難しいでしょう)。

【敗訴すると時効期間が延長される】
貸金返還請求訴訟の敗訴判決が確定すると、借金の消滅時効は、「判決確定の日から10年」に切り替わります。
つまり、消滅時効で借金の返済義務を消滅させるためには、最長で15年必要となることがあります。
ただし、判決で10年延長された時効時間が再び満了間近となった際に、時効期間を再度延長する目的で、同一の債権について改めて裁判上の請求がされることもあり得ます。

(2) 催告

債権者が「内容証明郵便」などで「返済の督促」をしてから「6ヶ月以内」に訴訟を提起したときには、督促のときに時効が中断します(例えば、本来は3月末日で時効期間が満了するというケースで、2月末日に内容証明郵便を発送し、翌3月1日に債務者に送達され、実際の訴訟の提起は4月1日だった場合、内容証明郵便が送達された3月1日の時点での時効中断の効果が認められるので、債務者は、その後の裁判で、時効の完成を抗弁とすることが出来ません)

ただし、督促の通知だけで訴訟が起こされなければ、時効は中断しません(上記のケースで、債権者が、催告から6か月以内=9月1日までに訴訟を提起しなければ、それ以降になって債権者から訴訟が起こされたとしても、債務者は、裁判の中で、時効の完成を抗弁として主張することが可能です)

(3) 差押え・仮差押え、仮処分

債権者が債務者の給与や不動産などを強制執行で差し押さえたときにも、借金の時効は中断します。

しかし、通常の借金であれば、「貸金返還請求訴訟」や「支払督促」=債務名義の取得を経ずに、債務者の財産を差し押さえることはできません。
したがって、借金の消滅時効の場合には、差し押さえで中断するケースはあまり問題になりません。

なお、仮差押え・仮処分といった保全処分は、本案訴訟で判決を取得した後の強制執行に備えて、債務名義の取得前に行なわれる手続です。

(4) 承認

前述の3つは、「債権者が権利行使したとき」に時効が中断する場合でした。
他方で、「債務者が債務の承認」をした際にも、時効は中断します。

債務者による「債務の承認」に該当するものとしては、次のものが挙げられます。

  • 借金(元金)の返済
  • 利息の支払い
  • 返済猶予の申し出

借金返済・利息の支払い

口座引落しで返済している銀行カードローンの時効には注意が必要です。

銀行口座に預貯金が残った状態で服役することになれば、預金残高のある限り返済が継続され、時効が(毎月)中断している可能性があるからです。

返済猶予の申出

たとえば知人からの借金について、服役中に返済の猶予を申し出た場合にも時効は中断します。

【家族が借金の肩代わりをしたときは時効中断しない】
服役中に、ローンなどの借入金を家族が肩代わりすることもありますが、家族による返済では時効は中断しません。
承認は、「時効によって利益を受ける者」である借金した本人によってなされなければ、時効中断の効力が生じないからです。
なお、最高裁判所は、時効完成前に保証人が一部弁済したケースについて、主債務者の時効中断事由とはならないこと示しています(最判平成7年9月8日金法1441号29頁)。

3.消滅時効の援用の効果

(1) 時効の援用とは

消滅時効は、「時効期間の完成(満了)」だけでは効力が生じません。これに加えて、債務者から「時効の援用」を行う必要があります。

「時効の援用」は、債務者から債権者に対して、「消滅時効が完成しているので、時効の利益を受けます」という意思表示をすればいいだけです。
法律上、時効の援用の方法の形式について制限はなく、したがって、口頭で行っても構いませんが、あとで「言った」、「言わない」といった紛争を避けるために、内容証明郵便を使用して、時効援用通知書を送ることが一般的です(債権者に通知が届いた日を明らかにするため、配達証明付きで送ると便利です)。

結局、服役中に「時効期間が完成」したとしても、時効援用の意思表示をしなければ、法律上、未だ「借金はなくなっていない」ことになります。

[参考記事]

借金の時効が成立する条件と、時効の援用ができないケース

(2) 服役中でも時効援用できるのか?

理屈の上では、服役中でも「時効の援用」を行うことは可能です。
しかし、時効の援用を行うには、「時効の起算日」などを正確に調査する必要があります。債務者が服役しているために、本人が知らないだけで、実際は既に「時効が中断している」可能性もあるからです。

正確な調査をせずに時効成立前に援用してしまうと、債権者に時効の中断事由を発生させるチャンスを与える(寝た子を起こす)ことになり、かえって債務者に不利益となってしまいます。

服役中の方のケースでは、起算日などの調査を十分に行えないことがほとんどです。
そのため、当事務所では、服役中の方からの「時効援用」のご依頼はお受けできません。

4.出所後に債権者から請求された場合には注意が必要

出所後に債権者から借金の返済を求められることもあり得ます。

服役中も借金の利息(遅延損害金)が止まることはありません。服役中に全く返済していないケースでは、借金が驚く金額に膨れあがっていることもあり得ます。

時効期間が完成しているのに、借金の一部を返済したり、返済の猶予を申し出たりすれば、「時効完成後の債務承認」として、原則的に時効援用の権利を失ってしまいます(最判昭和41年4月20日民集20巻4号702頁)。

「出所後にも残っている借金をどうすれば良いか分からない」「服役をしていた間に消滅時効が完成したと思うから援用がしたい」という方は、一度弁護士にご相談ください。

5.まとめ

ここまでお話してきたように、服役していても消滅時効は完成します。しかし、服役中は時効の援用をすることが難しいので、法律上、「返済義務」が完全に無くなるわけではありません。

また、服役中に時効が中断していたときには、そもそも時効期間が完成していない可能性があります。

いずれのケースでも、法律上残ってしまっている債務について、服役後に、自己破産・個人再生といった債務整理を行う必要があるかもしれません。

一方で、時効が完成している可能性が高いのであれば、債権者から請求される前に時効の援用をする必要があります。

どの場合も、慎重に時効の起算日の調査をすることが前提となります。

泉総合法律事務所では、服役後の方に限らず、借金問題を抱えた方のご相談を長年受けてきました。
状況に応じた適切なアドバイスを差し上げることができますので、是非一度ご相談ください。

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