消滅時効・時効援用?借金をしたまま刑務所に入ったら時効になるか?

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消滅時効・時効援用?借金をしたまま刑務所に入ったら時効になるか?

借金苦で犯罪に手を染めてしまったケースなどのように、刑務所で服役している人には、借金を抱えたまま逮捕され懲役刑となった方もいます。

実際、服役囚の間では「私の借金はどうなるのだろう」ということが話題となることもあるようです。

ところで、民法には「消滅時効」という制度があります。「借金を長期間返済しなければ返済義務がなくなる」ということを耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。服役が長期間にわたった場合には、消滅時効が完成することがあります。

以下、借金をしたまま刑務所に入った場合、消滅時効はどうなるのかについて解説します。

1.服役中でも消滅時効は進行する

罪を犯して刑務所に服役したときには、「時効は中断しない」、「援用が認められない」と誤解している方は少なくないようです。また、ウェブ上でもそのような説明をしているサイトを目にすることがあります。

しかし、それは正しくありません。

消費者金融やカード会社からの借金や携帯電話料金といった民事上の債権は、刑務所に服役している間も消滅時効の時効期間が進行します。

金融機関からの借金や携帯電話料金は、商事債権なので、時効期間は5年です。

2.消滅時効の中断事由

借金の消滅時効については、「返済しなければ時効が完成する」と勘違いしている方も少なくありません。消滅時効は、「債権者が権利を行使しない」ときに完成するものです。

したがって、「返済していない状態」が長期間続いただけでは、消滅時効が完成しない場合があります。

また、時効期間は、一定の事由が発生すると「中断」します。「中断」というのは、それまで進行していた時効期間が「ゼロ」に戻りやり直しになることです。

時効の中断は、次に説明する4つの場合にかぎり発生します。なお、「服役」や「刑罰を科せられたこと」は時効中断事由に該当しません。

(1) 裁判上の請求

長期の延滞となると、債権者である消費者金融やカード会社などが訴訟で返済を請求してくることがあります。

この「貸金返還請求訴訟」が提起されると、借金の消滅時効は中断します。債務者が服役中でも民事訴訟を提起される可能性があります。

①服役中に貸金返還請求訴訟を起こされたら

法律上の権利としては、服役中でもこの貸金返還請求訴訟に応じる(応訴する)ことは可能です。

しかし、「実際に借金していて、返していない」のであれば、「過払い金」で借金がなくなるなどの例外的なケースを除いて、勝訴することは難しいでしょう。

ケースによっては債権者が「貸金返還請求訴訟」ではなく「支払督促」を申立てることもあります。

支払督促は裁判よりも簡易に金銭債務を取り立てる裁判手続です。支払督促送付から2週間以内に異議を述べないときには、「訴訟で敗訴した場合」と同様の効果が生じます。

また、異議を述べると通常訴訟に移行します。

②敗訴すると時効期間が延長される

なお、貸金返還請求訴訟の敗訴判決が確定すると、借金の消滅時効は、「判決確定の日から10年」に切り替わります。

つまり、消滅時効で借金の返済義務を消滅させるためには、最長で15年必要となることがあります。

(2) 催告

債権者が「内容証明郵便」などで「返済の督促」をしてから「6ヶ月以内」に訴訟を提起したときには、督促のときに時効が中断します。

督促の通知だけで訴訟が起こされないときには、時効は中断しません。

(3) 差押え・仮差押え、仮処分

債権者が債務者の給与や不動産などを差し押さえたときにも、借金の時効は中断します。

しかし、通常の借金であれば、「貸金返還請求訴訟」や「支払督促」を経ずに差し押さえることはできません。

したがって、借金の時効が差押えで中断するケースは、あまり問題になりません。

(4) 承認

ここまでの3つは、「債権者が権利行使したとき」に時効が中断する場合でした。他方で、「債務者が債務の承認」をした際にも時効は中断します。「債務の承認」に該当するものとしては、次のものが挙げられます。

  • 借金(元金)の返済
  • 利息の支払い
  • 返済猶予の申し出

債務承認については、口座引落しで返済することも多い銀行カードローンに注意が必要です。銀行口座に預貯金が残った状態で服役することになれば、残額のある間は「返済している」可能性があります。

また、たとえば知人からの借金について、服役中に返済の猶予を申し出た場合にも時効は中断します、なお、商事債権ではない借金の時効期間は10年です。

(5) 家族が借金の肩代わりをしたとき

服役中に、家族が借金の返済を肩代わりすることもあります。そのような場合でも、その他の時効中断事由が発生していなければ、消滅時効は完成します。

承認は、「時効によって利益を受ける者」によってなされなければ、時効中断の効力は生じないからです。消滅時効によって利益を受けるのは、「借金した本人」なので「家族が返済」しても時効は中断しません。

なお、最高裁判所は、時効完成前に保証人が一部弁済したケースについて、主債務者の時効中断事由とはならないこと示しています(最判平成7年9月8日金法1441号29頁)。

3.消滅時効は「援用」しなければ効果が発生しない

消滅時効は、「時効期間の完成」だけでは効力が生じません。消滅時効によって借金の返済義務をなくすためには、「時効の援用」を行う必要があります。

したがって、服役中は「時効が完成」していても、「借金はなくなっていない」ことに注意が必要です。

(1) 時効援用の方法

時効の援用は、次に掲げる内容を記載した「内容証明郵便」を債権者に送付する方法で行うのが一般的です。

  • 債権を特定できる情報(契約番号・借入日・借入額)
  • 時効が完成していること(時効の起算日)
  • 時効を援用すること(「上記債権について消滅時効を援用する」と書きます)
  • 時効援用者の氏名・生年月日・住所
  • 通知書送付の日付

(2) 服役中でも時効援用できるのか?

理屈の上では、服役中でも「時効の援用」を行うことは可能です。

しかし、時効の援用を行うには、「時効の起算日」などを正確に調査する必要があります。債務者が服役しているために知らないだけで「時効が中断している」可能性もあるからです。

きちんとした調査をせずに時効を援用することは、債務者にとって不利益となる場合があります。服役中の方のケースでは、起算日などの調査を十分に行えないことがほとんどです。

そのため、当事務所では、服役中の方からの「時効援用」のご依頼はお受けできません。

4.出所後に債権者から請求された場合には注意が必要

出所後に債権者から借金の返済を求められることもあり得ます。

服役中も借金の利息(遅延損害金)が止まることはありません。服役中に全く返済していないケースでは、借金が驚く金額に膨れあがっていることもあり得ます。

この場合に、借金の一部を返済したり、返済の猶予を申し出れば、「時効完成後の債務承認」として、時効援用の権利を失うことがあります(最判昭和41年4月20日民集20巻4号702頁)。

5.まとめ

ここまでお話してきたように、服役することになっても消滅時効は完成します。しかし、服役中は時効援用をすることが難しいので、「返済義務」が完全になくなったわけではありません。

服役中に時効が中断していたときには、自己破産、個人再生といった債務整理を行う必要があるでしょう。

また、万が一、時効完成後に承認してしまったケースでも、「返済を強要された」、「数千円程度を1回支払っただけ」というケースでは、承認後の時効援用が認められる余地も残されています。

しかし、時効が完成している可能性が高いのであれば、債権者から請求される前に援用した方が当然リスクも小さくなります。早期に対処することが重要です。

服役中の借金が心配な方は、出所後できるだけ早い時期に弁護士に相談することをおすすめします。

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