ビットコインに関する破産手続及び強制執行手続における法的問題解説
最近、テレビやインターネット上の宣伝や広告、ニュースなどにおいて「ビットコイン」という言葉を耳にします。
ビットコインとは、平成20年、サトシ・ナカモトなる人物のインターネット上の投稿を契機として開発された電子決済システムであり、一般的に仮想通貨と呼ばれているものの一種です。平成21年より運用を開始されて以降、現在に至るまで、ビットコインはインターネット上の決済手段および投資目的の保有対象の仮想通貨として流通しています。
ビットコインの単位は「BTC」であり、その発行総数は、システム上、インフレ防止のため約2100万BTCを上限としています。なお、現在(平成30年1月20日時点)の1BTCは約130万円であり、その価値は、運用開始より大きく高騰しています。
今回は、このビットコインの基本的システムを踏まえて、債務者の破産、あるいは債務者の金銭債務の不履行におけるビットコインの取扱いに関する法的問題について解説します。
1.ビットコインとは?
(1) ビットコインは「コイン」ではない
ビットコインは「コイン」という言葉を用いられていることから、財布に入っている500円玉などの硬貨をイメージされる方がいるかもしれません。
しかし、ビットコインとは、実体のない仮想の通貨であり、普段、私たちの財布に入っている500円玉や1万円札のようなものではありません。
(2) ネットワーク上の決済システム
ビットコインとは、P2P(ピア・ツー・ピア)と呼ばれるインターネットのネットワーク技術を利用した決済システムのことです。
ビットコインの大きな特徴の1つは、P2P技術を利用している点にあり、ビットコインのシステムでは、そのシステムに参加する全てのコンピューターは対等の関係にあり、それぞれ同一の役割を果たしているのです。
たとえば、ビットコインには、日本銀行や日本政府のように特定の発行主体は存在しません。ビットコインの発行は、システム参加者の「採掘」(マイニング)と呼ばれる行為により行われるのです。
また、ビットコインの取引の安全性の確保については、銀行のような中央集権的機関により行われるのではなく、システム参加者の「採掘」を通じて、行われています。
そして、ビットコインの取引は、システム参加者により正当であると承認された取引データのブロックの連鎖として、ネットワーク上の唯一の取引台帳となるブロック・チェーンと呼ばれるものにより管理されており、その内容に反する取引は拒否されることにより、その信用性および安定性を確保しています。
(3) ビットコインは電子マネーに似て非なるもの
ビットコインに似たものとして電子マネーと呼ばれているものがあります。この電子マネーとビットコインは似て非なるものです。
まず、電子マネーは、ビットコインとは異なり特定の企業により発行されるものであり、その企業と提携している企業との取引においてのみ利用できます。
また、電子マネーの価値は発行主体である企業などによって決定されるものであり、ビットコインのように自由に取引する市場を持っていないため投資の対象にはなりません。
(4) ビットコインの利用手順
ビットコインの利用手順を簡単に説明すれば、以下のようになります。
まず、ビットコインを入手する必要があります。その方法は、①採掘により原始的に取得する方法、②他人から贈与してもらう方法、③取引所において購入する方法の3つにかぎられます。
次に、たとえば、XがYから1枚の絵画を0.01BTCの価格により購入する場合には、ウォレットと呼ばれる専用のソフトウェアを使い、XのアドレスからYのアドレスに0.01BTCを指定してビットコインを送信するだけです。
そして、このような決済の安全性を確保するため、ウォレット内部には、保有するビットコインを使用するために必須となるプライベートキー(秘密鍵)を備えており、プライベートキーはパスワードによって厳重に保護することができます。
こうして、XのアドレスからYのアドレスへの送信記録はネットワーク全体に流通することになり、システム参加者による承認の結果、その取引の正当性を付与されることになるのです。
2.ビットコインの差し押えはできるの?
(1) ビットコインを保有している者の代金不払に対抗する方法
それでは、たとえば、XはYに100万円を貸しており、Yは期限までに100万円を返済しないとき、Xは、裁判に敗訴して、なお100万円を支払おうとしないYの保有しているビットコイン(評価額150万円)を差押えることにより、無事、100万円の返済を実現できるのでしょうか?
これは、ビットコインに対する強制執行の可能性の問題です。
(2) ビットコインの差押えはハードルが高い?
ビットコインに対する強制執行について、考えられる類型としては、動産に対する強制執行、債権に対する強制執行、その他の財産権に対する強制執行の3つあります。
①動産に対する強制執行
まず、ビットコインは、空間の一部を占める有体物ではありませんから(東京地裁平成27年8月5日判決参照)、動産に対する強制執行は難しいでしょう。
なお、ビットコインのウォレットのインストールされた端末(動産)を差し押さえることは、そもそも、ウォレットのインストールされた端末だけでは送金できない場合があることに加えて、ビットコインとは無関係の財産的価値まで差し押さえることになるという問題があるため、これを法的に正当化するのは困難です。
②債権に対する強制執行
次に、ビットコインを保有していることは、特定の者(債務者)に対して、一定の行為を要求する権利(債権)を有していることを意味しませんから、債権に対する強制執行も難しいでしょう。
ただし、債務者であるXがビットコインを取引所に預託しており、契約上、預託しているビットコインの返還を請求できる場合には、これは債権ですから、この預託ビットコイン返還請求権を対象とする強制執行は可能でしょう。
③その他の財産権に対する強制執行
残るは、その他の財産権に対する強制執行です。この点、ビットコインの保有者は、ビットコインのシステムを利用して、経済的取引における決済あるいは他の通貨との交換することのできる地位にありますから、これは、特殊な財産権の1つであると考えられます。
そうすると、ビットコインに対する強制執行としては、基本的には、その他の財産権に対する強制執行により行うことになりそうです。
ただし、仮に、そのように考えた場合でも、実際のビットコインの経済的価値を移転させるためには、債務者の所持する秘密鍵あるいはこれを保護するパスワードを入手する必要がありますから、これを認める具体的手続のないかぎり、強制執行としての実効性は乏しいでしょう。
3.破産者のビットコインの行方
破産手続開始決定時点における破産者の保有するビットコインは、破産者の財産として扱われ、破産管財人による管理の下、換価され、債権者に配当されます。ただし、これは破産者の協力を前提としています。
というのは、ビットコインの処分などは、秘密鍵あるいは、これを保護するパスワードを入手しないかぎり不可能であるところ、破産者が頑なにパスワードを秘匿するなどすれば、実際に破産者のビットコインを換価することは困難だからです。
要するに、破産手続におけるビットコインの換価を強制的に行うことは難しいのです。
4.借金問題は泉総合法律事務所へ
以上のとおり、ビットコインは、紙幣・硬貨のような動産ではなく、また、預金のような債権でもなく、パスワードにより保護された一種のネットワーク上の決済システムそれ自体であるため、これに対する強制執行、あるいは破産手続における換価などを行うことは非常に困難なのです。
とはいえ、今後は、ビットコインなどの仮想通貨に対する法的問題を解消するためにさまざまな法律が新たに制定される可能性があります。
ビットコインに関する法的問題に悩んだら、専門家である弁護士に相談してみるのも手でしょう。
泉総合法律事務所は、さまざまな債務整理案件の相談を多数受けており、借金問題解決の実績が非常に豊富です。借金でお悩みの方は、問題が膨らんでしまう前にお早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
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