弁済額が遺産相続により増えてしまうケースとは?
借金問題でご相談に来られた方に対し、弁護士は債務額や家計の状況、ご相談者の資産などを聴き取りさせていただきます。
その聞き取りをした内容をもとに、任意整理で進められそうなのか、法的な手続きが必要と見込まれるのか、さらには任意整理や個人再生の場合には毎月の返済額がどの程度と見込まれるのか等をご案内することになります。
もっとも、ご相談者の置かれている状況は常にたゆたうものであり、ご相談時にご案内した見込みと変わることもあります。
例えば、ご相談時には安定した十分な収入があったものの、その後病気やケガ等で収入が激減してしまったケース、あるいはご相談時には任意整理をするには十分な収入がなかったものの、その後の昇給で十分な収入を確保できるようになったケースなどがあります。
このような「収支の変化」以外にも「債務額の変化」や「資産の変化」といった事柄もあります。その一例が遺産相続となります。
今回は、弁済額が遺産相続により増えてしまうケースについて解説します。
1.遺産相続と任意整理
遺産相続とは、被相続人(亡くなられた方)の権利・義務を相続人が包括的に承継することを言います。
「権利」「義務」ということになりますので、被相続人のプラスの財産だけでなく被相続人が背負っていた負債も承継することになります。
相続によって任意整理を行うにあたり有利になることも不利になることもあります。
相続が任意整理に有利になるケースとしては、被相続人がプラスの財産を多く所持していた一方、負債は皆無あるいは僅少な額であったという場合です。
ご相談時には任意整理を進めるための収入や資産が不足していたところ、プラスの財産を相続することによって任意整理を行えるだけの資産を確保できるということがあります。
一方で、相続が任意整理に不利になるケースとしては、被相続人が多額の負債を抱えているケースです。
相続前の債務だけであれば自身の収入だけで任意整理で進めることが可能だったところ、被相続人の多額の負債を相続してしまった結果、もはや任意整理で返済していくことが困難になってしまうということもあります。
負債額が多額な場合には相続放棄も考えた方が良いでしょう。
2.遺産相続と自己破産
当初、自己破産で手続きを進めていた場合も、相続が有利に働くケースと不利になるケースがあります。
多額のプラスの財産を相続することによって借金を完済あるいは大部分を返済できて残額は任意整理をすることで返済できるということになれば、自己破産の手続をとる必要がなくなります。
一方、当初は破産を想定していなかったものの、多額の負債を相続してしまったことによって自己破産の手続を取らざるを得なくなってしまうこともあります。
自己破産手続きの場合、開始決定前の相続であれば、負債を相続したとしてもその負債も免責の対象になります。
しかし、一方で、プラスの財産についても破産者の資産という扱いを受け、金額によっては換価されることになります。
なお、開始決定前であれば相続放棄を行うことができ、相続放棄すれば遺産は破産手続きに関係してきません。
しかし、裁判所での相続放棄手続きを行わず、単に相続人の間だけで「自分は相続財産はいらない」ということを決めただけですと、法的な相続放棄ではないことから、否認権を行使される可能性があるので注意が必要です。
3.遺産相続と個人再生
個人再生の場合も個人破産同様、多額のプラスの財産を相続することによって完済や任意整理で進められるようになることもあります。
また、多額の負債を相続した場合には、破産手続きを選択せざるを得なくなることもあります。
これに加えて個人再生手続きの場合は、遺産相続によって当初想定の弁済計画を変更しなくてはならなくなる可能性も出てきます。
例えば、小規模個人再生の場合、負債額500万円以上1500万円未満の方ですと
- 負債額の5分の1の金額
- 破産の場合の予想配当額(清算価値)
を比較して金額が高い方を基準に弁済計画を立てなければなりません。
そのため、負債を相続してしまいますと①の負債額が膨らんでしまうことになり、弁済計画に影響を及ぼす恐れが出てきます。
一方で、プラスの財産を相続することになりますと、金額によっては②の清算価値が上昇することになり、やはり弁済計画に影響を及ぼす恐れが出てきます。
このように、相続した遺産がプラスの財産でも負債でも弁済計画に影響を与える可能性が高いことから、どのような財産(負債)を相続するのかを慎重に見極めることが重要です。
相続をした場合に弁済計画に大きな影響を与える恐れがある場合には、相続放棄を検討しなければなりません。
4.まとめ
相続は、それまで自分の資産や負債でなかったものが突然自分の資産や負債になることを意味します。それは金額の多寡にかかわらず、それまでの自身の置かれていた状況が変化するということです。
借金問題を解決するにあたり注意を払わなければ取り返しのつかない結果をもたらすこともあります(破産手続きで相続財産のことを意図的に隠した場合、免責されない可能性もあります)。
「相続」という制度に対しては「相続放棄」や「限定承認」といった制度もあります。ただし、相続放棄や限定承認は裁判所で手続きを行わなくてはなりません。期間制限もある手続きですので、まずは専門家に相談してみることをお勧めいたします。