任意売却の流れと、自己破産前に行うメリットについて
住宅ローンを利用して自宅を購入後、ローンの返済が苦しく滞納してしまった場合、そのまま放置していると最終的には裁判所により自宅は競売されてしまいます。
早めにローン会社にリスケジュールの相談をしたり、個人再生の申立てをしたりすることで自宅を守れる可能性はありますが、もう一つの選択肢として住宅を「任意売却」してローンの支払いに充てるという方法があります。
任意売却を利用した場合、競売より高額で不動産を売却することができます。
特に、借金が嵩んでしまい止むを得ず自己破産をする際に、任意売却を行うメリットは大きいです。
今回は、この「任意売却」について解説します。
1.任意売却の仕組み
任意売却は、住宅ローンを滞納して支払いが困難になった場合や、住宅ローンを支払えなくなりそうなときに、住宅ローン債権者や抵当権者と話し合いをして、その話し合いによって抵当権を外した上で物件を市場で売却する手続きです。
任意売却が必要になるのは、基本的にオーバーローンのケースです。
オーバーローンというのは、不動産を売却しても売却代金でローンを完済できないケースです。たとえば、住宅を売っても2,000万円の価値しかないのに、残ローンが3,000万円であれば、1,000万円のオーバーローン状態となります(一方、住宅ローン残よりも物件価値の方が高い場合は、アンダーローンと呼びます)。
住宅などの不動産は、購入したときは価格が高くても、時間が経過すると価値がどんどん低下することがあるのでこのようなことが起こります。実際に、フルローンや少ない頭金で住宅ローンを設定している方は、多くのケースでオーバーローン状態となっています。
何故オーバーローン状態で任意売却が有効なのかと言うと、そこには「抵当権」の問題があります。
不動産を売却するときには、抵当権を抹消する必要があります。
抵当権は借金の支払いを担保するために設定したものなので、抹消のためには基本的に借金を全額完済する必要があります。
オーバーローンであるということは、不動産の売却代金を返済に充てても、ローンの完済ができないため、抵当権が抹消できないということを意味します。
しかし、任意売却をするときには、住宅ローン債権者や抵当権者と交渉して市場で物件を売却するので、売れたときには、住宅ローンを完済できなくても抵当権を抹消してもらうことができます。
そのため、任意売却ではオーバーローン状態であっても市場で売ることが可能になるのです。
2.任意売却と競売との違い
任意売却と同じく、持ち家を売却する方法に「競売」があります。
では、「任意売却」と「競売」は一体何が違うのかを具体的に説明していきましょう。
(1) 手続きの進め方
任意売却は、物件を市場で売却する方法です。
不動産屋に仲介を依頼して売り出してもらい、買い手が内見を経て気に入ったら売買代金を決めて売却する、という流れになります。
これに対し、競売は裁判所が介入して、強制的に不動産の売却を進める方法です。
裁判所が公告を出して入札者を公募し、もっとも高額な金額で落札した人が不動産を取得します。
競売では、外見的に「債務の支払いができなかったので競売にかけられた」ことが明らかになりますし、強制的に物件から追い出されてしまうという意味でも債務者にかかるプレッシャーが大きいです。
(2) 売却価格
任意売却をすると、競売より高額で物件が売れることが多いです。
競売の場合、入札者は不動産の中を見ることができない、瑕疵担保責任を追及することもできないなど、いろいろな制限が課されます。
その代わりと言っては何ですが、競落の費用は市場価格の7割〜8割程度にしかならないことが多いです。
これに対し、任意売却なら通常の流通価格で売れるので、競売よりも高額になりやすいです。
物件が高く売れると、ローン返済に充てられる金額も大きくなるので、売却後の残債を大きく減らすことができます。
(3) プライバシーの保持
任意売却をするときには、周囲から不審に思われる要素がありません。
これに対し競売になると、裁判所の執行官が現況調査に来たり、購入を検討している不動産業者が様子を見に来たりするので、周囲に不審がられて噂が発生する可能性があります。
また、ネット上で競売物件の検索も可能です。
したがって、任意売却の方がプライバシーを守ることができると言えます。
(4) 手続きの手間
競売になると、裁判所が主導で手続を進めるので、債務者自身がしなければならないことはほとんどありません。
これに対し、任意売却の場合には債務者が売主として主導的に売却を進めていかなければならないため、競売より手続が面倒です。
不動産会社や弁護士など、専門家によるサポートが必須と言えるでしょう。
任意売却 | 競売 | |
---|---|---|
手続き | 債務者主体 | 裁判所 |
売却価格 | 市場価格 | 市場価格の7・8割程度 |
プライバシー | 守られる | 周りにバレる可能性あり |
手間 | かかる | 裁判所主導のためかからない |
以上のように、任意売却と競売にはいろいろな違いがあります。
一般的には、高く売れる任意売却を利用する方が、債務者にとってメリットが大きいでしょう。
3.任意売却の流れ
最後に、任意売却の手続について、どのような流れで進行するのかを解説します。
(1) 任意売却を金融機関に打診
まずは、任意売却をすることを借入先の金融機関に打診します。
以下のようなタイミングで、任意売却をするかどうかの判断をしましょう。
- 住宅ローンの支払いができなくなりそう
- 住宅ローンを滞納していて督促されている
- 住宅ローンの保証会社による代位弁済がされてしまった
- 競売を申立てられた
ただし、いったん競売を申立てられると、開札期日前でないと任意売却ができない(開札期日の前日までに売却を完了する必要がある)ので、急がなければなりません。

[参考記事]
「競売開始決定通知」が届いたらどう対処する?
(2) 査定書を提出して了承を得る
任意売却を進めるときには、物件の査定書を金融機関に提出し、その価格で売却することを了承してもらう必要があります。
これにより、物件をその価格で売却する活動を進めていくこととなります。
(3) 不動産を売り出す
金融機関が了承したら、実際に不動産を売り出して売却を進めます。売却の流れは、普通に不動産を売却するときと同じです。
購入希望者が現れたら、内見・価格交渉をして、条件が整ったら売買契約を締結します。
通常は、売買契約締結時に手付金が支払われます。
(4) 抵当権を抹消して不動産を引き渡す
決済期日が来たら、残代金の支払いがあり、金融機関には抵当権を抹消してもらいます。
そして、買い主に不動産を引き渡し、買い主が所有権移転登記を行います。
(5) 残債を支払うまたは債務整理をする
オーバーローンのケースで任意売却をしても残債を完済できない場合には、残った債務を支払っていく必要があります。
たとえば、3,000万円の残ローンがあって、物件が2,000万円で売れたら、1,000万円は無担保の借金として残ってしまいます。
そして、任意売却後の残債が返済できないほどに高額な場合は、自己破産などの債務整理を検討する必要がでてきます。
他方、住宅を高額で売却できたために、自己破産を避ける(別の債務整理方法を選択する)ことができるケースがあることも事実です。
4.自己破産前に任意売却をするメリット
実は、自己破産前に任意売却をすることには大きな意味があります。
まず、前述した通り、任意売却により残債務が返済できるだけの額に減少できた場合、そもそも自己破産せずに生活を再建できる可能性があります。
また、事前に任意売却によって不動産を手放しておけば、他に目ぼしい資産がない限り、自己破産手続が「同時廃止」となる可能性が高いため、手間と費用が大幅に減らせることがあります。
自己破産までに不動産等を売却しておらず、大きな資産がある場合は「管財事件」となり、管財予納金と呼ばれる最低20万円以上の裁判所手続費用が必要となります。
一方、裁判所が同時廃止と判断すれば、手間と費用が管財事件よりも大幅に減少できるのです(ただし、免責不許可事由がある場合は、同時廃止にならない可能性もあります)。
なお、自己破産前に不動産を任意売却していたとしても、偏頗弁済となることはありません。
いずれにせよ、自己破産前に任意売却を検討する価値はあるでしょう。

[参考記事]
自己破産で管財事件になったら|流れ・期間・注意点を解説
5.任意売却や自己破産は泉総合法律事務所へ
任意売却は、一般的に競売よりもメリットが大きく、借金解決のための重要な手段の一つです。
たとえマイホームがオーバーローンであったとしても、過度に不安になる必要はありません。
泉総合法律事務所では、「住宅ローンを支払えない」「住宅ローンを滞納している」「競売が始まってしまった」といったお悩みを抱えた方からのご相談を受けることが多々あります。
そして、それらのお悩みを解決してきたという実績も豊富にあります。

[解決事例]
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