個人再生 [公開日]2021年4月2日

個人再生申立前に知人に多額の贈与をしました。どうなりますか?

多額の借金を解決する方法の1つに「個人再生」があります。

しかし、個人再生は非常に複雑な手続きで、多くの注意点があります。注意点を守らなければ個人再生に失敗し、借金を解決できません。

注意点の1つが「贈与」です。
お小遣いやお年玉程度の贈与でしたら通常問題はありませんが、個人再生の申立て前に知人へ多額の贈与をしてしまうと、それが問題となってしまいます。場合によっては贈与が原因で個人再生に失敗することもあります。

この記事では、個人再生前の贈与に関する問題点について解説していきます。

1.個人再生について

個人再生前の贈与が個人再生手続きに影響を及ぼす理由は、贈与によって個人再生後の返済額が変わってしまうためです。

個人再生の仕組みを知れば話が見えてくるので、まずは個人再生そのものについての説明を簡単に行います。

(1) 個人再生の概要

個人再生は、裁判所に申立てをして行う債務整理です。
所定の手続きを減ることで、全ての借金を大幅に減額してもらえます(実際には「非減免債権」という一部の特殊な債務や税金については減額を受けられませんが、各種ローンやクレジットカード、消費者金融などを利用したことによる借金であれば一律に減額を受けられます)。

減額された借金は、その後原則3年程度かけて毎月分割返済していくことになります。

どのくらい減額されるかは個別の事情で異なります。

(2) 個人再生による減額率の決定方法

以下の3つの方法で計算して「最も高額なもの」が個人再生後の総支払額になります。

  • 最低返済額
  • 清算価値
  • 可処分所得の2年分(給与所得者等再生の場合のみ)

詳しくは以下のコラムをご覧ください。

[参考記事]

個人再生の最低弁済額|月々の支払いはいくらになるの?

2.個人再生申立て前の贈与の影響

では、本題です。
個人再生の申立てをする前に行った贈与が個人再生に影響をもたらすのは何故なのでしょうか?

(1) 清算価値が変わる

例えば、1,000万円の借金を背負ったAさんが個人再生をしたとします。

「最低弁済額」の基準に従えば、Aさんの借金は1000万円の5分の1である200万円に圧縮されるはずです。
しかし、Aさんは評価額300万円の土地を保有していました。このままでは最低弁済額ではなく「清算価値」が適用されて、個人再生後の支払額が200万円から300万円に上昇してしまいます。

これを防ぐために、Aさんは土地を知人に贈与しました。自ら財産を手放すことで、個人再生後の支払額を減らそうとしたのです。

こうなると困るのは債権者です。贈与がなければ300万円の弁済を受けられたにもかかわらず、贈与のせいで200万円しか回収できなくなり、100万円も損をしてしまいます。

このような贈与による財産の減少または財産の隠匿を防ぐために、個人再生の前の贈与などは「清算価値に上乗せ」されることになっています。

すなわち、贈与すること自体は可能ですし、贈与の効果がなくなることもありません。
しかし、贈与した部分は清算価値に加算されるため、個人再生後の支払額は贈与しても贈与しなくても結局同じとなるわけです。

高額な財産を贈与や譲渡して財産を減らした結果、清算価値が下がった場合は、故意であろうとなかろうと、贈与や譲渡した財産の評価額が清算価値に上乗せされます。

(2) 悪質な場合は個人再生に失敗する

仮に贈与をしたとしても、個人再生の申立てをするときに贈与のことを裁判所へ正直に申告すれば問題はありません。

しかし、贈与のことを隠すなどすると、個人再生そのものに失敗する可能性があります。

民事再生法174条2項には、以下の場合には裁判所が再生計画不認可の決定をするように定められています。(一部抜粋)

  • 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき
  • 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき

贈与等を利用した財産の隠匿は不正行為であり、まさに「不正の方法」です。
また、贈与を利用して清算価値を下げることは債権者の利益に反しています。

そのため個人再生の前に贈与をして、それをわざと申告しないなどすると、裁判所は再生計画不認可の決定を行います。つまり個人再生に失敗するということです。

[参考記事]

個人再生ができない人とは?|失敗する理由と対策

(3) 成功した個人再生が取り消される可能性

仮に個人再生に成功しても、以下の場合は個人再生の効果が裁判所によって取り消されてしまいます。

  • 財産隠し等が発覚した
  • 弁済予定額が再生計画認可決定時の清算価値を下回っていた

後者は例えば「個人再生後の支払額が200万円であると決定されたが、その人には実は300万円の清算価値に相当する財産があった」などと後で判明した場合などです。

個人再生が取り消されると、減額された借金が復活して、個人再生前と同じ金額を支払う義務が生じます。それに加えて延滞利息などの支払いまで請求されてしまいます。
しかも、分割払いではなく一括払いで請求されるので、支払いが非常に難しくなります。

また、個人再生のために裁判所などに納めた費用は返還されません。

以前よりも財産が減った状態にもかかわらず、以前の借金に利息などを加えた金額を一括払いしなければならないため、現実的な解決策は自己破産に限られてしまいます。

3.自己判断による贈与は厳禁!弁護士へ相談を

個人再生前に贈与をしても、個人再生後の支払額は変わりません。
それなのに、贈与をすると裁判所から財産隠しなどを疑われる可能性が増え、申告に手間がかかるなど、デメリットの方が大きくなります。

「安値で譲る」「名義変更だけ」という抜け道を探す方も多いのですが、基本的には好ましくない行為です。

どうしても贈与を含めた財産の処分を行わなければならない事情がある方は、事前に弁護士までご相談ください。問題の有無を判断し、適切にアドバイスさせていただきます。

自己判断で贈与をするなどして財産を減らすと、個人再生に失敗する可能性があります。必ず弁護士に相談し、確認をとってから行動を起こしましょう。

相談は何度でも無料です。借金の悩みや不安についてお気軽に弁護士へご相談ください。
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