個人再生をした場合、受け取れる退職金は減ってしまうのか?

個人再生

個人再生をした場合、受け取れる退職金は減ってしまうのか?

借金をしている場合には、個人再生が効果的な解決方法となります。個人再生をすると、大きな借金でも大幅に減額することができるからです。

しかし、個人再生をするときには、債務者が所有している財産の価値が問題となります。このとき、債務者の「退職金」についても、評価の証明をしなければなりません。

実際には個人再生で退職金がもらえなくなることはありませんが「それなら、どうして退職金の評価が問題になるのか?」と、不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は、個人再生と退職金の正しい関係について、弁護士が解説します。

1.個人再生

(1) 個人再生とは

個人再生は、借金を整理するための債務整理手続の一つです。
個人再生をするときには、裁判所に申立をして、借金返済額を大きく減額してもらうことができます。

特に財産がない場合には、借金額を5分の1~10分の1程度にまで減らしてもらえるので、大きな借金ができてしまった場合でも、問題を解決することができます。

また、住宅ローンがあっても、住宅ローンの支払いは継続したまま他の借金だけを減額できるという「住宅資金特別条項」という特則もあります。

そのため、「借金返済が苦しいけれど自宅だけはどうしても守りたい」という方にとって、非常に助かる制度と言えます。

(2) 清算価値保障原則とは

ただ、個人再生には、「清算価値保障原則」という原則があります。清算価値保障原則とは、「債務者が所有している財産の分については、最低限支払をしなければならない」という原則です。

このような原則が認められるのは、債務者が多額の財産を持ったまま借金だけを減額するのは不公平だからです。

もし、500万円の資産を持っている人が、個人再生によって借金を100万円にしてもらえるとすると、債権者にしてみれば、本人を破産させて財産を配当させた方が得だということになってしまいます。

清算価値保障原則があるため、個人再生をするときには、多くの資産があると不利になります。

たとえば、500万円の借金がある人の場合、特に資産がなければ100万円にまで借金を減額してもらうことができますが、300万円分の資産があったら、借金は300万円にまでしか減額されません。もし、500万円分の資産があったら、借金は一切減額してもらえないことになってしまいます。

2.個人再生と退職金の関係

(1) 退職金は資産として計上される

「清算価値保障原則については分かったけれど、それが退職金とどう関係するのか?」と疑問に感じた方がいらっしゃるかもしれません。

実は、個人再生の手続において、退職金は「債務者の資産」として取り扱われます。

退職金を既に受けとっている場合だけではなく、これから受けとる将来の退職金についても、資産計上されます。

すでに退職金を受けとっている場合には、退職金は預貯金などの資産に変わっているのでそれが財産となりますし、これから受けとる場合には「退職金債権」が資産として計上されます。退職金債権というのは、労働者が会社に対して退職金を請求できる権利のことです。

そのため、サラリーマンや公務員で、退職金を受けとる(予定のある)人は、個人再生をしても資産評価が高額となり、清算価値保障原則に引っかかって、あまり借金が減らない可能性があります。

(2) 退職金が財産として評価されるケース

退職金が財産として計上されるのは、退職金がある人ですから、サラリーマンや公務員の人が個人再生する場合になります。自営業者やアルバイト、パートなどの人は、退職金が問題となることはありません。

なお、サラリーマンや公務員の人の場合でも、常に退職金が問題になるわけではありません。

各地の裁判所の運用にもよりますが、退職金債権の計上が必要なのは、勤続5年以上の場合です。一般的に、勤続3年以下の場合、ほとんど退職金は発生しませんし、3年~5年の場合でも非常に金額が低くなるので、個人再生で問題になることはありません。

(3) 個人再生しても退職金はなくならない

一般的に、「個人再生をすると、退職金を取られる」とか「個人再生すると、退職金を受け取れなくなる」と思われていることがあります。

しかし、実際には個人再生によって退職金を受け取れなくなることはありません。

先にも説明したように、個人再生の清算価値保障原則は、「持っている財産は最低限支払わなければならない」という決まりです。財産そのものをとられるというものではありません。

したがって、退職金がある場合、個人再生をすると、残る借金額が大きくなってしまう可能性はありますが、退職金を取られるということはないので、安心してください。

3.退職金の評価方法

退職金の評価方法

個人再生で退職金が問題となるとき、具体的にはいくらとして評価するのでしょうか?

退職金の評価方法は、退職金の受取り時期によって異なりますので、以下で場合分けをして、ご説明します。

(1) 退職金支給が相当先の場合

1つ目は、退職金の受取りが相当先である場合です。具体的には退職が決まっていないなら、すべてこのパターンになります。

この場合、退職金をまだ受けとっていないので、資産の基礎となるのは「退職金見込額」となります。退職金見込額とは、「もし今退職したら、退職金をいくら受けとることができるか」という金額です。

退職金見込額の評価時は、再生計画認可決定時です。そこで、「再生計画認可決定時に退職したとしたら、会社から支給されるであろう退職金の金額」が、資産の基礎となります。あくまで見込額なので、実際に会社を辞める必要はありません。

また、退職が遠い将来である場合、本当に退職金を受領できるか否かが不確実になります。

退職するまでの間に会社が倒産するかもしれませんし、退職金規程が変更されるかもしれません。懲戒解雇されて、退職金がなくなる可能性もあります。

そこで、こういった可能性を見越して、資産計上する金額は、退職金見込額の8分の1となります。

たとえば、「今退職したらいくらの退職金を受け取れるか」という退職金見込額が400万円の場合、個人再生の資産として計上される評価額は、8分の1である「50万円」となります。

(2) もうすぐ退職する場合

次に、もうすぐ退職することが決まっているケースについて、見てみましょう。

たとえば、すでに退職願を出していて、退職日まで決定しているようなケースや、既に退職していて、あとは退職金の振り込みを待っているようなケースです。

この場合、退職が遠い将来の場合よりも、退職金を受けとることができる見込みが高いです。そこで、退職金のうち、より高い額を資産として計上すべきと言えます。

ただ、退職金は、一部が差押禁止債権として取り扱われています。差押禁止債権とは、強制執行や税金滞納処分などによっても差し押さえができない財産です。退職金債権は、労働者の重要な権利であり生活にも必要なものなので、一部しか差し押さえができないことになっているのです。

退職金債権で差し押さえができるのは、4分の1の金額までです。そこで、退職が間近なケースにおいて、個人再生で資産計上するのも、これに準じて退職金評価額の4分の1となります。

(3) 既に退職して退職金を受け取っている場合

次に、既に退職をして退職金を受けとってしまっているケースを見てみましょう。

この場合、退職金は受領済ですから、「退職金債権」ではなくなっています。振り込まれた預貯金のまま置いていたら預貯金として、あるいは投資信託や株券や不動産を購入したらそれらの資産として、もしくはその退職金で住宅ローンを完済したら自宅不動産として、といったように別の資産としてみなされます。

以上のように、個人再生をするときにも、「退職金」としてではなく、現時点での資産の形で資産計上されます。

この場合、何分の1などといった、割合的に減額する制度はありませんので、退職金の全額が資産計上されることになります。

たとえば、3000万円の退職金を受けとり、そのまま預貯金として3000万円を置いていたら、「3000万円の預貯金がある」として評価されるので、個人再生をしても3000万円までにしか借金が減縮されません。

ただし、多額の退職金を受領しても、必要な費用として使ってしまっていれば、全額が資産計上されることはありません。

たとえば、退職金を切り崩して生活をしていたことで徐々に退職金が減ってしまい、今は100万円くらいしか残っていない、という場合には、資産計上されるのは100万円となります。

そうはいっても、個人再生直前に不自然なお金の使い方をすると、「何に使ったのか」ということになり、手続上の問題が発生する可能性があるので、絶対に控えましょう。

個人再生前に多額の退職金があって、どうしたらよいか分からない場合、素人判断で対処すると危険ですから、弁護士に相談すべきです。

(4) 再生計画認可決定時までに退職金を受けとったケース

次に、個人再生申立時にはまだ退職金を受けとっていなかったけれども、再生計画認可決定時までの間に受けとる、というケースがあります。この場合、退職金は、「もうすぐ受けとるケース」か「すでに受けとっているケース」か、どちらの取扱いになるのでしょうか?

この問題は、「個人再生における資産計上のタイミングがいつになるか」という問題です。これについては、一般的に「認可決定時」と考えられています。

そのため、個人再生申立時や開始決定時にまだ退職金を受けとっていなくても、認可決定時までに受けとると、受けとった退職金(預金)が全額資産として評価され、借金が全く減らない、という可能性があります。

したがって、退職が間近である人が個人再生をするときには、申立のタイミングや個人再生をすることの可否について、慎重に判断する必要があります。

4.退職金見込額証明書について

さて、勤続5年以上の人が個人再生をするときには「退職金見込額」を証明しなければなりませんが、退職金見込額は、どうやって計算するものなのでしょうか?
これについては、2つの証明方法があります。

1つは、会社から退職金証明書を取り寄せる方法、もう1つは会社の退職金規程を入手して、自分で計算する方法です。以下で、それぞれについて、説明します。

(1) 退職金証明書を取得する

退職金証明書というのは、勤務先が「今、〇〇さんが退職したら、いくらの退職金を支給します」と書いて退職金額を証明する文書です。
個人再生をするときには、基本的に会社に退職金証明書の作成を依頼して、入手した退職金証明書を裁判所に提出する必要があります。総務部やその他の担当部署に、申請をしましょう。

ただ、退職金証明書を取得するとき、問題が発生するケースがあります。会社に個人再生を知られてしまう可能性があることです。

退職金証明書を申請するとき、必要な理由を説明しなければならないことが普通です。
このとき「裁判所に提出するため」「個人再生に必要」などと説明すると、借金を抱えて債務整理していることを知られます。債務整理したからといって、会社を解雇されることはありませんが、昇進などに響いてくる可能性もありますし、周囲の同僚や上司部下に知られて噂をされる可能性もあります。

①会社に知られず退職金証明書の申請をする方法

そこで、退職金証明書の申請を出すときには、以下のような申請理由を使うとよいです。

「住宅ローンなどの借入をするのに、金融機関に提出しなければならない」

実際に、ローン借入の審査において、退職金証明書の提出を要求する金融機関もあるので、この説明方法は有効です。

②会社が退職金証明書の発行に協力してくれない

退職金証明書を取得しようとしたときに、もう1つ問題が発生するパターンがあります。それは、会社が退職金証明書の作成に協力してくれなかったり、頼みにくかったりする場合があることです。

たとえば、勤務先が小さな事業所で、特定の退職金取扱い部署もないようなところであれば、誰に言ってよいのか分からないこともありますし、経営者本人に言っても「忙しいから」などと言われてなかなか対応してもらえないことがあります。

また、事務員が「計算方法が分からない」と言って、発行までに非常に時間がかかってしまうこともあるでしょう。

(2) 退職金規程を取り寄せて計算書を作成する

以上のように、退職金証明書を入手しようとしても、スムーズに行かないことがあります。

また、「住宅ローンのために退職金証明書が必要」と説明すればいいとは言っても、定年退職が近い場合などにそのような言い訳をするのは不自然です。
公務員などのケースでも、勤務先に退職金証明書の発行依頼をしにくいことがあるでしょう。

このように、退職金証明書の依頼が困難であるケースでは、自分で退職金を計算することにより、退職金証明書を不要とすることができます。
退職金が支給される場合、必ず勤務先に退職金規程があります。退職金規程を策定しないかぎり、会社は退職金を支払う必要がないからです。

そこで、退職金規程を入手して、それに従って自分で計算をすると、正しい退職金見込額がわかります。

退職金規程は、会社内において、従業員がアクセスできる場所においてあるはずです。就業規定と一体になっている場合もあります。どこにあるか分からない場合には、会社の総務部などに確認するとよいでしょう。

公務員の場合、退職金計算方法が公表されているので、非常に分かりやすいです。

退職金規程を見つけたら、コピーをとるなどして入手して、自分であてはめて計算書を作成します。裁判所に、退職金規定の写しと計算書を提出したら、退職金証明書の提出は不要となります。この方法なら、会社に個人再生を知られる可能性がなくなるので、どのような方でも安心です。

5.個人再生手続は泉総合法律事務所へ

以上のように、個人再生をしても退職金がなくなることはありませんが、退職金がある場合、個人再生をしてもあまり借金が減らない可能性があります。

具体的にどこまで借金が減るかは、ケースによっても異なります。また、退職金証明方法にも、工夫が必要なケースがあります。

このように、個人再生をするとき退職金関連でいろいろな問題が発生する可能性があるため、退職金が気になる場合に最も有益な形で個人再生を成功させるには、弁護士にご相談いただくのが一番です。

泉総合法律事務所は、債務整理を得意とする事務所であり、これまで多くの方の借金問題を個人再生手続によって解決してきました。一人ひとりに合った債務整理方法を専門家がアドバイスし、借金の解決をサポートしてまいりますので、是非ともお気軽に泉総合法律事務所にご相談ください。

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