個人再生中の退職・転職は可能?転職するべきタイミングとは
【この記事を読んでわかる事】
- 個人再生中に退職・転職をすることは可能なのか
- 個人再生中に退職することのリスクとは
- 退職金が出る場合に特に注意しなければならない理由
個人再生は、安定した収入がなければ認められません。では、個人再生している最中に、転職や退職をすることはできるのでしょうか?
1. 個人再生の要件「継続的・反復した収入」
個人再生は借金を大幅に減額できる制度ですが、認可にはいくつかの要件をクリアしなければなりません。主な内容は以下の通りです。
①債務者が個人である
個人再生は個人が行う民事再生です。個人再生には小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類があり、前者は中小の個人事業者を想定した手続きで、後者はサラリーマンを対象とした手続きです。
いずれも個人であることが条件で、法人が利用することはできません。法人が利用できる再建型の手続は、「民事再生手続」と「会社更生手続」です。
ただし、法人の代表者が個人として個人再生手続することは可能です。
②債務者が継続的に又は反復して収入を得る見込みがある
個人再生を認可するには、再生計画通りに返済できる見込みがあることが大前提となります。そのため、安定的な収入=継続的又は反復した収入があることが要件です。
個人再生認可後は原則3年(例外5年)で完済し、その間は3ヶ月に1度のペースで残債を返済します。
サラリーマンのように毎月月給が入ってくる場合は、安定性ということに関しては問題になりません。
自営業者の場合は、毎月収入があるかどうかは個々の事情によりますが、少なくとも3か月程度の間隔で収入がある方が有利になります。
例えば収入を得られるのが1年に1回という場合は、継続的、反復的とはみなされないので、不利になる可能性もあります。
しかし、その判断も金額によるので、事前に法律の専門家に相談をしましょう。
③負債総額が5000万円を超えていないこと
個人再生は負債総額5000万円以下であることが条件です。それ以上の場合は個人再生を利用できません。この中に住宅ローンは含みません。
負債総額に上限があるのは、個人再生のような簡素化した手続きで、5000万円を超える高額な債権を減額するとなると、債権者側に大きな負担がかかるからです。
そのため、個人再生申立の際は事前に負債が5000万円を超えているかどうか調査する必要があります。
(1) 継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること
個人再生の要件である「継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること」は、判断されるタイミングによっても結果が変わります。
①再生手続開始時
個人再生手続き開始時に継続的・反復して収入を得る見込みがないと判断された場合は、手続きは認められません。
②再生手続途中の段階
個人再生を開始しても、その後リストラ、失業などで状況が変わり、継続的・反復して収入を得る見込みがないと判断された場合、認可の審査前に再生手続は廃止されます。
(2) 再生計画認可
継続的・反復して収入を得る見込みがないことは、個人再生の不認可事由の1つです。
そのため、手続開始の審査で、見込みなしと判断されれば不認可となります。
継続的・反復的な収入は再生計画全体を通じて求められる要件であるため、途中でその要件を満たせなくなった場合は手続廃止となります。
(3) 継続的・反復した収入の証明
継続的・反復した収入を証明するには、安定的な収入を証明する書類の提出が必要です。
先述の通り、3ヶ月に1回の再生計画通りに返済できれば、就業形態は問いません。
公務員、サラリーマンの場合、収入の安定性は問題になることはなく、返済できる収入があるかどうかが焦点になります。
自営業の場合は月によって収入の多いときもあれば、少ないときもあるので、サラリーマンより安定性には欠けますが、3ヶ月に1回の支払いに支障がないと
判断されれば認可される可能性は高くなります。
アルバイト、パートの場合は、現時点で継続的、反復的な収入はありますが、雇用期間が不安定なので、将来に渡ってその収入が安定的に確保されるとは限りません。
そのため、入社して間もない場合は、将来的に継続するのか問題視されることもあります。
ただし、アルバイト、パートであっても継続収入が見込まれる場合には認可されることもあるので、あくまでもケースバイケースです。
2. 個人再生中の退職・転職
個人再生では、再生計画全体を通じて継続的又は反復的な収入があることが要件となりますが、個人再生中に退職や転職をすると、不認可や中止になってしまうのでしょうか?
(1) 転職
個人再生の申立期間中、返済期間中、それぞれ転職をすることはできるのか解説します。
①申立期間中:可能
申立期間中に転職することは可能です。しかし、転職により収入が変わるので書類内容の変更・追加をする必要があります。
それだけ手続きに時間がかかるので、認可まで時間かかる可能性があります。
②返済期間中:可能
個人再生認可後の返済期間中も転職は可能です。
ただし、転職したことで収入が下がり、返済ができなくなった場合は個人再生は失敗します。
転職による減給がやむを得ない事情による場合は、返済計画を2年延長して、毎月の支払額を減額してもらえることもありますが、認められるかどうかはケースバイケースです。
そのため、返済期間中に転職する場合は、弁護士に相談してから行動することをおすすめします。
③退職金が出る場合の注意点
個人再生中に転職するのは、返済できる収入が確保されるのであればいずれのタイミングであっても問題にはなりません。
しかし、退職金が出る場合は要注意です。
個人再生には「清算価値保証の原則」があり、退職金がある場合には清算価値にプラスされるので、弁済額が高くなる可能性があります。
清算価値とは、住宅、車、株式、預金など全ての財産を処分して現金にした価値のことです。こうした財産は仮に自己破産をした場合、全て債権者に分配されることになります。
個人再生では債権者の権利を守るため、清算価値以上の弁済をすることを認可の条件にしています。これが清算価値保証の原則です。
こうしたルールがあるのは、清算価値保証がなければ、債権者が債務者に自己破産されるより損をする可能性があり、個人再生に同意するメリットがなくなってしまうからです。
清算価値保証は、債権者の利益保護と個人再生の同意獲得、この両方の観点から必要なのです。
そして、退職金もこの清算価値に含まれる財産とみなされます。ただし、全額が対象となる訳ではありません。
個人再生では退職のタイミングによって、財産扱いされる額が変わります。
- 現時点で見込まれる退職金(辞める予定なし)…支給額の1/8が財産扱い
- 近々辞める、退職済で受領前…支給額の1/4が財産扱い
- 既に受け取った場合…全額財産扱い
上記を踏まえると、個人再生認可決定前に退職を決めると支給額の1/4、退職金を受け取ってしまうと、全額が財産扱いとなります。
しかし、退職予定がなければ、退職金の7/8 は財産扱いされません。これは個人再生後の弁済額の決定に大きく関わるので、非常に重要なポイントです。
退職金の清算価値が計算されるタイミングは、個人再生の認可決定時と考えられるので、それ以前に退職の確定、退職金の受領はしないことをおすすめします。
(2) 退職
次は、個人再生中の退職について解説します。
- 申立期間中:可能
- 認可決定後:可能
退職については、申立期間中でも認可決定後の返済中であっても可能です。
しかし、退職をすると収入がなくなるので、審査が通らなくなる可能性があります。
また、認可されたとしても、返済できずに再生計画が中止となるリスクがあります。
また、転職と同様に、退職金が清算価値にプラスされるので、認可決定前に退職を決定したり、退職金を受領したりすると、弁済額が上がる可能性が高くなります。
・やむを得ない事情で退職する場合は返済計画延長で対処可能
再生計画認可後に、リストラや事故、病気など、やむを得ない事情で退職をしなければならないときは、返済計画を2年延長することが可能です。
2年延長しても返済ができず、ハードシップ免責の適用も受けられない場合は、再生計画は失敗、借金の減額も取り消されます。
その場合は、債務整理を一からやり直さなければならないので、これまでの努力も水の泡になってしまいます。
そのため、個人再生後に収入の状況が変わった場合は、状況が行き詰まる前に、速やかに弁護士に相談をして下さい。
3.まとめ
個人再生中に退職も転職もすることはできます。しかし、特に退職については慎重にしてください。せっかく認められた個人再生が失敗してしまう可能性があります。
個人再生をするなら、泉総合法律事務所にご相談ください。状況に合わせたベストな債務整理の方法を一緒に考えさせていただきます。