個人再生で問題となる偏頗弁済とは?債権者平等の原則の基本
返済できないほどの借金を抱えてしまい、解決策を探した結果、「個人再生」という方法を知った方も多いかと思います。
個人再生についてさらに調べを進めていくと、「偏頗弁済」という単語を見つけるかもしれません。
さて、この「偏頗弁済」とはどういった意味なのでしょうか?
なんとなく「偏頗弁済はいけないこと」程度の情報は、比較的簡単に得ることができるはずです。
しかし、偏頗弁済がどういった行為なのか、なぜいけないことなのかを知っている方は少ないのではないでしょうか。
本記事では偏頗弁済について解説していきます。
個人再生を検討している方は、ぜひご覧ください。
1.偏頗弁済の概要
偏頗弁済を簡単に言うと、「債権者が複数存在する場合に、特定の債権者にのみ有利になる返済をすること」となります。
ざっくりと「えこひいきになるような返済」とイメージしてください。
偏頗弁済の詳細は後述しますが、まずは偏頗弁済がなぜ禁止されているのかを紹介します。
偏頗弁済は、個人再生や自己破産のルールの1つである「債権者平等の原則」に反するため、NGな行為とされています。
では、債権者平等の原則とはどういったものなのでしょうか?
個人再生や自己破産によって債務を整理することは、債務者にとっては嬉しいことですが、債権者にとっては大きな損害となります。
債権者が拒否することができない自己破産や個人再生は、あまりにも債務者に有利で、公平性に欠けます。
そこで、少しでも公平性を実現するために、債権者が最低限の弁済を受けられるようにする方法が必要となりました。
公平性を実現することが目的なので、債権者同士の間にも、不公平があってはいけません。
こういった事情で「債権者平等の原則」というものが設けられて、実際に運用されています。
この原則に基づき、債権者はそれぞれの債権額に応じて、債務者の財産から比例配分的に弁済を受けることができます。
例えば債権者Aの債権額が600万円、債権者Bの債権額が300万円、債権者Cの債権額が100万円とします。
トータルで1000万円の債務であり、A~Cの債権額の比率は6:3:1となります。
債権者に配当・弁済される金額が全体で100万円の場合、この比率に基づいて、Aは60万円、Bは30万円、Cは10万円の配当・弁済を受けることになっています。
こういったルールがあるにも関わらず、たとえば債務者がCに10万円を超える額を勝手に弁済してしまうと、AやBは予定されていた配当・弁済を受けることができません。
こういった勝手な弁済は偏頗弁済として、弁済を受けられないかもしれない債権者の不利益を回避するために、そして裁判所が目指す公平性の実現のために禁止されているのです。
なお、任意整理はあるため、こういった規定がありません。
2.偏頗弁済にならない行為・なる行為
「特定の債権者だけに有利なえこひいきになる返済」が偏頗弁済ですが、具体的にどういった行為が偏頗弁済とされるのでしょうか?
(1) 偏頗弁済にならない行為
まず、以下のような支払いは偏頗弁済になりません。
税金・年金・国民健康保険料などの支払い
これらは破産法上の「租税等の請求権に類する債権」です。
こういった債務を弁済しても問題ありません。
生活に必要な費用の支払い
家賃・水道光熱費・通信費などの支払いは、生活に必要な支出であり、偏頗弁済とはなりません。
ただし、一旦これらを滞納してしまうと、扱いが変わってしまうことがあります。
詳しくは後述しますが、滞納した部分を支払う前に、弁護士に相談して確認することをおすすめします。
第三者弁済
債務者本人の債務を家族や友人が代わりに支払うことを「第三者弁済」と言います。
特定の債権者に対してのみ第三者弁済が行われたとしても、債務者本人の財産が減るわけでないので、偏頗弁済とはなりません。
(2) 偏頗弁済になる行為
概ね以下のような要素を満たすと、その行為は偏頗弁済になります。
- 特定の債権者のみに特別の利益を与える目的、他の債権者を害する目的がある
- 担保を与える、または債務を消滅させる行為(弁済など)である
- 債務者に義務がない、または義務を行う時期でない
例えば、他に弁済期が到来している債務があるにも関わらず、まだ弁済期になっていない別の債務を弁済する行為などは、偏頗弁済となります。
具体的には、以下のような行為です。
滞納している債務の支払い
生活に必要な費用であっても、一度滞納してしまうと「個人再生で整理する債務」に含まれてしまいます。
そのため、滞納した債務を支払ってしまうと、特定の債権者にのみ有利な返済=偏頗弁済となってしまうのです。
これは生活費のみではなく、滞納した養育費などについても同様です。
一方、租税等に類するものは、滞納分の支払いであっても偏頗弁済とはなりません。
線引きが難しいので、弁済をする前に必ず弁護士に確認を取ることを強くおすすめします
第三者弁済をした人に対する支払い
第三者弁済自体は偏頗弁済ではありません
しかし、第三者弁済をした人に対して債務者本人が弁済すると、それが偏頗弁済になってしまいます。
債務者本人の財産が減ってしまうため、他の債権者が期待できる額の弁済を受けられなくなってしまうからです。
3.偏頗弁済となる期間
いつの支払いが偏頗弁済となるのか、はっきりとした区切りが必要です。
次に、偏頗弁済について、いつからいつまで注意しなければいけないのか考えていきましょう。
(1) いつから偏頗弁済になる?
債務者が「支払不能」になった時点で、その後の支払いは偏頗弁済となってしまいます。
支払不能とは、「支払期限になったにも関わらず、継続して返済できるだけの財産や収入がない」と客観的に考えられる状態のことです。
単に「入金が遅れて支払日にたまたま間に合わない」といったケースなどは、支払不能にあてはまりません。
支払不能状態かどうかの判断も難しいものですが、遅くても弁護士に債務整理を依頼し、弁護士が受任通知を債権者等に通知した後の返済は、偏頗弁済とみなされる可能性が極めて高いです。
(2) いつまで偏頗弁済となる?
こちらは明確で、個人再生の場合は「再生計画認可決定後」であれば、偏頗弁済を考慮しなくても問題ありません。
4.偏頗弁済をするとどうなる?
最後に、個人再生の際に偏頗弁済をすると、どうなってしまうでしょうか?
(1) 個人再生の申立てが退けられる
個人再生の開始決定前に偏頗弁済が明らかになると、申立てが棄却されてしまう可能性があります。
簡単に言えば、個人再生ができなくなってしまうということです。
(2) 返済額が増額される
偏頗弁済したことが明らかになった場合、偏頗弁済の額を清算価値に上乗せしなければならなくなります。その結果、返済額が増えてしまう可能性があります。
負担が増加してしまうため、再生債務者としては経済的に苦しい状態になりかねません。
5.個人再生は失敗しないように弁護士へ相談を
個人再生には注意点がたくさんあります。偏頗弁済もその1つです。
偏頗弁済をしてしまった場合、必ず弁護士に相談して、善後策を練ってください。
偏頗弁済の事実を隠したままだと、いずれ露呈して個人再生に失敗してしまう可能性があります。
また、「自分は偏頗弁済をしているかもしれない」と少しでも不安になった場合も、弁護士に相談して確認すべきでしょう。
弁護士は依頼人から告げられた内容に基づいて、最も良い方法で借金を解決してくれます。
都合の悪いことを報告しないままだと、いつか自分に不利益が返ってきます。
弁護士には正直に話すことが大切です。弁護士はあなたの味方なので、どうぞ包み隠さず打ち明けてください。