個人再生 [公開日]2022年3月22日

個人再生ではなぜ家計簿の提出が必要?

個人再生は、元本を含めた債務を大幅に減額できる可能性がある一方で、煩雑な裁判手続きへの対応が必要です。
申立て時の提出書類もたくさんあるため、計画的に申立ての準備を進めることが大切です。

個人再生手続開始の申立てをする際の必要書類の一つに、家計簿(家計収支表)があります。
家計簿をつける習慣がない方は、申立ての前に準備する必要がありますので、お早めに弁護士までご相談ください。

今回は、個人再生で家計簿(家計収支表)の提出が必要な理由や、提出時期・記録が必要な期間・書き方などについて解説します。

1.個人再生で家計簿(家計収支表)の提出が必要な理由

個人再生手続開始の申立てを行う際には、「家計収支表」の提出が必要とされています。
家計収支表は、一般的に「家計簿」と呼ばれるものに近い書面です。

個人再生の申立て時に家計収支表の提出が必要とされているのは、以下の理由によります。

(1) 「支払不能のおそれ」の有無をチェックするため

個人再生手続きは、主に債務者(申立人)に「支払不能のおそれ」がある場合に開始されます(民事再生法21条1項、破産法15条1項)。

「支払不能」とは、弁済期が到来した債務を一般的かつ継続的に弁済することができない状態を意味します(破産法2条11項)。
個人再生手続きの開始には、少なくともこの「支払不能」に近い状態にあることが求められるのです。

「支払不能のおそれ」があるかどうかは、債務者の資産・債務の状況に加えて、収支の状況も考慮して判断されます。

家計収支表は、債務者の収支の状況を明らかにするための参考資料として、個人再生の申立て時に提出が求められているのです。

(2) 計画弁済の実現可能性をチェックするため

個人再生の場合、再生計画が決議・認可された後、減額後の債務を原則3年間(最大5年間)で弁済しなければなりません。

再生計画が決議されたとしても、遂行される見込みがない場合には、裁判所は再生計画の不認可決定を行います(民事再生法174条2項2号)。
つまり、債務者の収支の状況に照らして、計画弁済のペースを実行可能なものとしなければ、再生計画が認可されないのです。

家計収支表は、裁判所が再生計画の遂行可能性を判断するための参考資料にもなります。

(3) 財産隠しや偏頗弁済がないかをチェックするため

債務者が、再生手続開始の前後で財産隠し偏頗弁済(一部の債権者に対する優先的な弁済)などを行った場合、個人再生手続きにおける否認の対象となります(民事再生法127条以下)。

また、財産隠しについては「詐欺再生罪」、一部の偏頗弁済については「特定の債権者に対する担保の供与等の罪」として、処罰の対象となる可能性もあります(民事再生法255条、256条)。

家計収支表は、否認権や上記の犯罪に該当する事情がないかをチェックするための資料としても参照されます。

2.家計簿(家計収支表)はいつ提出する?

裁判所に対して家計収支表を提出するのは、個人再生手続開始の申立てを行うタイミングです。

裁判所に提出する家計収支表には、申立て前1か月分~3か月分の期間に係る家計の収支をすべて記録する必要があります。

期間については、個人再生手続開始の申立てを行う裁判所によって異なります。
そのため、申立先の裁判所における取り扱いを事前に確認しておきましょう。

3.裁判所に提出する家計簿(家計収支表)の様式

家計収支表は、個々の収入・支出を逐一記録する一般的な家計簿とは異なり、月単位での収入・支出を項目ごとにまとめて記録する形式になっています。

高知地方裁判所では、自己破産の申立て時に提出する家計収支表のExcelファイルとPDFファイルを公開しています。
参考:申立て等で使う書式例|高知地方裁判所

個人再生の申立て時に提出する家計収支表も、基本的には自己破産の家計収支表と同様の形式で作成すればOKです。
そのため、上記の裁判所ウェブページからダウンロードしたExcelファイルを利用するのが便利でしょう。

記録すべき期間が異なる場合には、Excelファイルの列数を減らして調整します。

また、収入・支出の各項目については、個々の債務者の収支状況に応じて、必要な項目を追加して構いません。

4.家計簿(家計収支表)を作成する際の注意点

個人再生手続開始の申立て時に提出する家計収支表を作成する際には、以下のポイントに注意が必要です。

(1) 期間中の入出金を漏れなく記録する

家計収支表には、対象期間中の入出金を漏れなく正確に記録する必要があります。
記録に不正確な部分があると、裁判所が正しくチェックすることができないからです。

家計収支表に虚偽の内容を記載すると、再生計画の不認可事由に該当するほか(民事再生法174条2項1号、3号)、刑事罰が科されるおそれもあります(同法258条)。

(2) 支出に関する領収書はすべて保管しておく

家計収支表に記載した支出については、その正確性や根拠を確かめるために、裁判所から領収書を提出するよう求められる場合があります。

裁判所からの指示に速やかに対応できるように、領収書は整理したうえできちんと保管しておきましょう。

(3) 同居人の収支も合算して記載する

家計収支表は、債務者本人だけの収支を記載するものではなく、家計全体での収支を記載するものです。

したがって、同居人の収入・支出についても、債務者本人の収支と合算したうえで記載する必要があります。

同居人の収支を含めた記録がなされていない場合、家計収支表が提出し直しとなり、個人再生手続きの開始が遅れてしまう原因になるので注意しましょう。

5.家計簿(家計収支表)の作成に関するQ&A

個人再生の申立て時に提出する家計収支表は、一般的な家計簿とは異なり、あくまでも個人再生手続きにおける参考資料であるという点に留意して作成する必要があります。

以下では、家計収支表の作成に関して、個人再生手続きとの関係で注意すべき3つのポイントを、Q&A形式で解説します。

(1) 弁護士依頼前から家計簿をつけていなくても大丈夫?

家計簿をつける習慣のある方はそれほど多くないと思われますが、普段から家計簿をつけていない方でも、個人再生の申立てを行うことには何の問題もありません。
むしろ、個人再生の申立て時に提出する家計収支表は、基本的には弁護士へのご依頼後にご作成いただくことになります。

前述のとおり、個人再生の申立て時に提出する家計収支表は、一般的な家計簿とは内容が異なります。

また、弁護士に個人再生のご依頼をいただいてから、実際に個人再生手続開始の申立てを行うまでには、数か月間を要するのが一般的です。

そのため、申立てを行う日程に合わせて、弁護士のアドバイスを踏まえつつ家計収支表をご作成いただく必要があります。

(2) 多額の浪費をそのまま家計収支表に記載しても大丈夫?

家計収支表に記録された支出の中に浪費と思われるものが含まれていると、債務者の弁済能力について、裁判所から低い評価を受けてしまうおそれがあります。

弁済能力に問題がある場合、再生計画に定める計画弁済の内容の幅に制限が加わってしまいます。
債権者の納得が得られる再生計画案を作成することができない場合、債権者によって再生計画が否決されてしまう事態になりかねません。

とは言え、先述の通り虚偽の内容を記載してはいけません。
家計収支表は弁護士へのご依頼後にご作成いただくことになりますので、記録すべき期間中は、基本的に浪費を控えることをお願いしております。

(3) 裁判所に提出後は家計簿をつけなくても良い?

家計収支表は、あくまでも個人再生手続開始の申立ての1か月~3か月前の期間について作成するものです。
それ以降の期間については、原則として、債務者が家計簿等を作成する必要はありません。

ただし、個人再生手続きの進行中も家計簿をつけるように裁判所から指示される場合があります

その場合は、裁判所の指示に従い、家計簿をつけるようにしましょう。

また、自主的に家計簿をつけることは、無駄な支出を抑えて収支を改善することにも繋がります。
そのため、特に裁判所から指示がなくとも、ご自身から進んで家計簿をつけることが望ましいと言えるでしょう。

6.個人再生手続きの申立ては弁護士にご相談ください

個人再生は、申立てに必要な書類も多く、かつ裁判所での手続きも煩雑なため、専門家である弁護士へのご依頼をお勧めいたします。

弁護士にご依頼いただければ、申立ての準備段階から依頼者を親身になってサポートし、個人再生による円滑な債務負担の軽減を実現できるように尽力いたします。
また、個人再生以外の任意整理・自己破産といった債務整理手続きも、弁護士にお任せいただければ一貫してサポートいたします。

借金の負担が大きく、個人再生等の債務整理をご検討中の方は、お早めに弁護士までご相談ください。

相談は何度でも無料です。借金の悩みや不安についてお気軽に弁護士へご相談ください。
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