破産の債権者申立て|借金を放置し続けるのは危険!
破産の申し立ては、債務者本人が申し立てる「自己破産」がほとんどです。
しかし、破産法は「債権者からの破産申し立て(債権者破産申立)」も認めています。
債権者からの破産申し立ては、メリットよりもデメリットの方が多いため、実際に利用されるケースは多くありません。
しかし、債権者に対してあまりにも不誠実な対応をした場合や、財産隠しを疑われている場合などには、債権者が破産を申し立てることもあり得るのです。
今回は、この「債権者破産」について解説します。
1.債権者破産とは
破産手続きを開始するためには、当事者からの申し立てが必要です(破産法15条)。当事者の申し立てもないのに裁判所が職権で誰かを破産させることはありません。
多くの破産手続きは、債務者本人の申し立てによってはじまります。
しかし、「債権者」が破産の申し立てをすることも可能です。
破産法18条も「債権者又は債務者は、破産手続開始の申し立てをすることができる」と定めています。
これは一般に、「債権者破産」や「第三者破産」と呼ばれています。
債務者自身による破産申立の場合を「自己破産」と呼ぶのは、「債権者破産」との区別をするためでもあります。
つまり、債権者破産と自己破産の大きな違いは、誰が破産の申し立てをするかです。
とはいえ、司法統計に基づくと、債権者破産は全体の破産事件に占める割合でいえば1%にも満たない数です。
【徳島市観光協会の債権者破産の事例】
ここで、債権者破産の事例を見てみましょう。①市が観光協会を債権者破産の申し立て
2018年3月に、徳島市観光協会を債務者とする破産が「債権者である徳島市」によって申し立てられました。
徳島市観光協会は「阿波おどり」を運営する団体でもあり、「毎年多くの観光客を集めている阿波踊りの運営団体が多額の負債を抱えていたこと」だけでなく「今後の阿波おどりの実施への不安」などから大きな注目を集めました。
②債権者破産の背景
一連の報道などによれば、徳島市は観光協会に対し毎年補助金を支給しているほか、観光協会の負担する金融機関への借入を代位弁済する契約を結んでいたようです。
他方、徳島市観光協会は、雨天時のチケット払い戻し代の累積などが原因で4億円以上の借入金があったようです。
③市の観光協会への不信感が引き金に
観光協会側は、「経営を合理化して借入金の返済をしながら阿波おどりの運営を続ける」旨の主張をしていたようですが、徳島市との話し合いがまとまらず、徳島市が金融機関から4億円弱の債権譲渡を受けて、破産申立に踏み切る決断をしたようです。
観光協会と市との交渉が決裂した背景には、市の観光協会に対する不信が払拭できなかったことが指摘されていますが、このような事情は、個人に対して債権者破産が申し立てされる場合にも当てはまるといえるでしょう。
2.債権者破産の申し立てをする理由
冒頭で、債権者破産は債権者にもデメリットが多いと記しましたが、それにも関わらず債権者が破産申立に踏み切るのは何かしらの理由があるからです。
では、債権者はなぜ債権者破産の申し立てをするのでしょうか?
(1) 債務者に財産があり配当が期待できる
債権者にとって「満額回収できないとしても、いくらかの配当を得る」ことが、現状(延滞状況)を続けることよりも望ましいときには、債権者破産に大きな意味があります。
債権者破産は、高額の予納金を債権者が納めなければなりません。この予納金は、債務者の財産を換価できれば、最優先で返還されます。
したがって、債務者に予納金を超える額の財産があれば、債権者の予納金負担はなくなります。
予納金を回収した上で、いくらかの配当金を得られるケースは決して少なくありません。
また、債権者が強制執行を申し立てるには、訴訟や支払督促などの方法によって債務名義を取得しなければなりません。
しかも、債権者が強制執行の対象となる財産を特定しなければなりませんから、時間も手間もかなりかかります。
これに対し、破産手続きでは、債務者の財産を「包括的に差押える」ことが可能なので、個別の権利行使よりも債権者の負担の少ないことも珍しくないのです。
よって、延滞を続けられたり、強制執行を申し立てたりするよりも、債権者破産の方が債権者の利益になることが少なからずあります。
(2) 見せしめとして債権者破産申立に踏み切る
債権者と債務者との間の信頼関係が完全に失われたときには、「採算度外視」で債権者申立をしてくる可能性も否定できません。
先にご紹介した徳島市観光協会のケースも、観光協会の負債処理よりも「阿波おどりの運営を観光協会にこのままでは任せられない」という不信が払拭できなかったことの方が大きな要因ではないかと指摘されています。
また、金融機関は「悪しき前例」を作ることをとても嫌がります。今では、ネットでさまざまな情報が簡単に拡散するので、特に中小の消費者金融にとっては「この債権者は甘い」という評判が流れることは死活問題にもなりかねません。
したがって、個人の債務者の場合であっても、「借入時の経緯」や「延滞の状況」に大きな問題があるときには、見せしめとして債権者申立に踏み切られてもおかしくはないといえます。
(3) 債務者側の対応にしびれを切らせた場合
任意整理の交渉中や個人再生を申し立てる準備の間に、債権者側が破産申立をするケースもあります。
たとえば、債務者に多額の税金の滞納があるケースでは、受任通知送付後から個人再生申立まで半年~1年ほどかかることもあり、債権者が「待ちきれない」と破産を申し立てることもあるようです。
3.債務者にとっての債権者破産のデメリット
債権者破産は、すでに自己破産の申し立てを検討しているときには、「債務者が予納金を納めずに済む」メリットがあります。
しかし、債務者にとって債権者破産のデメリットには、以下のものが挙げられ、メリットより大きいというのが現実です。
- 自己破産の場合よりも破産手続きの終結まで時間がかかる
- 自己破産による口座凍結・携帯解約などのデメリットを回避する措置が講じられない
- 任意整理で解決する余地がなくなる
(1)破産手続き終結まで時間がかかる
破産手続きが開始されると、一部の資格・職業に制限が生じるほか、通信・転居にも制限が生じます。
債権者破産のときには、代理人弁護士による債権調査・資産調査が行われませんので、自己破産の場合よりも破産手続きに時間がかかることが一般的です。
その分だけ、先ほど申し上げた制限がかかる期間も長くなってしまいます。
(2) デメリット回避措置を講じることができない
また、債務者の予期しないタイミングで債権者申立がなされたときには、口座凍結や携帯解約を回避するための措置(預金の引き出しや滞納している携帯・スマホ利用料の支払い)を講じることもできません。
破産申立を知ってから、これらの措置を講じれば、破産管財人による否認権行使の対象となってしまうからです。
(3) 任意整理で解決する余地がなくなる
債権者申立がなされたときには、すでに任意整理によって借金問題を解決する余地がなくなっている場合が多く、債務整理の選択肢が減ってしまうことは否めません。
したがって、自己破産の場合よりも破産によって生じるデメリットが多くなります。
しかし、債権者申立をされた場合でも、「必ず破産する」わけではありません。
破産原因がない(支払不能ではない)ことを裁判所が認めてくれれば、債権者申立は棄却されます。
また、支払不能の状態にあるときでも、債権者による破産申立の後に、個人再生を申し立てれば、破産手続きは開始されません。
4.借金問題でお困りならば早めに弁護士へ相談を
実際には、債権者からの破産申し立てはごく僅かな例に過ぎません。
しかし、債権者に破産を申し立てられれば、債務整理の時期や方法を自分で選択することができない他に、自己破産なら回避できたデメリットも回避できません。
借金問題は、早期に対応することが何よりも大切です。問題解決を先送りして、「自転車操業」・「まわし」を繰り返すことになれば、債権者側から破産を申し立てられるリスクもそれだけ高くなります。
借金の返済に苦しいと感じたときには、1日も早く弁護士に相談することをお勧めします。
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