自己破産 [公開日]2021年12月27日

大阪地裁での破産の運用|管財事件と同時廃止事件の振り分け基準など

破産手続は、各地方の裁判所で異なり、その裁判所の運用を十分に知っておかないと、手続がスムーズに進行しなかったり、余計な費用がかかったりする場合があります。

この記事では、大阪地方裁判所における破産手続の運用について、特に費用や手続に大きな影響を与える、「管財事件」と「同時廃止事件」の区別を中心に説明していきます。

1.管財事件と同時廃止事件とは?

破産手続は、①(狭い意味の)破産手続と、②免責手続に分かれます。

①破産手続とは、裁判所が選任した破産管財人が、債務者の資産を売却して金銭に換え、債権者に配当する手続です。債務者が法人のときは、この手続が完了すれば法人は消滅し、手続は終了です。

②免責手続とは、裁判所に残債務を免除してもらう手続です。債務者が個人のときは、残債務があるままでは経済的な更生ができないので、別途、免責手続が必要となるのです。

破産管財人が選任される事件が「管財事件」で、本来は破産手続の原則型です。

さて破産管財人は地元の弁護士の中から裁判所が選任しますが、仕事をしてもらうには報酬や経費がかかります。これらは破産費用であり債務者の負担です。
債務者の資産が乏しく、破産管財人の報酬など破産費用に足りない場合には、破産管財人を選任することはできません。

そこで、この場合、裁判所は破産手続を終了すると決定しなくてはなりません。債務者が個人の場合は、もう次の免責決定手続に進むわけです。

破産手続を終了させることを法律用語で「破産手続の廃止」と呼びます。

資産が乏しい場合は、裁判所は、支払不能などの破産原因を認定して破産手続を開始する決定を下すと同時にその手続を廃止することになります。これを「同時廃止」と呼びます。

[参考記事]

自己破産で管財事件になったら|流れ・期間・予納金等を解説

[参考記事]

自己破産で同時廃止となるケース|同時廃止の流れ・期間・費用は?

2.管財事件と同時廃止事件の振り分け基準

管財事件となるか同時廃止事件となるかは、裁判官による事実認定の問題であり絶対的な客観的基準はありません

しかし、手続の運用が個々の裁判官によりあまりにもバラバラでは不公平なうえ、実務処理に支障を来します。

そこで裁判所は、あくまで最終的には個々の裁判官の判断であることを前提に、一定のルールを設けています(管財事件と同時廃止事件の振り分け基準)。

振り分け基準は全国の裁判所で統一されている部分もあれば、個々の裁判所における地域的な事情(破産管財人となれる弁護士の数や、破産事件の多さなど)から個別・独自に設定されている部分もあります。

3.大阪地裁の振り分け基準

では、大阪地裁の振り分け基準はどうなっているのでしょうか?

(1) 現金・預貯金以外の資産

まず、債務者が「現金・預貯金以外の資産」を持っている場合について説明します。

たとえば、債務者が宝石を持っていたとしましょう。それが中古市場価格で20万円以上の価値を有する場合は、管財事件となります。

つまり原則として、20万円以上の価値がある資産を持っていれば、「破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」には該当しないと判断するのです。これは全国の裁判所共通です。

何故20万円なのかについては、論理的な理由はありません。裁判所が破産手続を運用してきた長い歴史の中で形成された実務慣行だと言えます(※木内道祥監修・全国倒産処理弁護士ネットワーク編「破産実務Q&A220問」(金融財務事情研究会)25頁参照)。

20万円以上の資産があるかどうかは、その資産の種類毎にまとめて判断されます。

例えば、債務者が中古車2台を所有しており、1台は15万円、もう1台は10万円という場合、合計25万円の資産と扱われ、管財事件となります。

このように同一種類(同一項目)の資産は、その資産額を「積算」した合計額が20万円以上であれば、管財事件となるのです。

他方、15万円の中古車と10万円の宝石であれば、種類(項目)が違うため、積算されず、管財事件とはなりません。

このような取扱いは資産積算の原則であり、管財業務の効率化を図るためです。

【積算原則の例外】
しかし、例えば、①8万円の中古車を2台、②9万円の宝石を2個、③6万円の美術品を3個、④19万円相当の有価証券を一口所有しているという場合、たしかに、ひとつひとつの資産項目毎にみると、それぞれ20万円未満ですが、全部を合計すれば71万円の資産がありますから、このような場合まで同時廃止としてしまうのは不公平です。そこで、個別の資産が20万円未満であっても、それが積み重なって多額になった場合には、管財事件となります。
もっとも、それが、いくらに至った場合かについては明確な基準はなく、個別案件毎に裁判官の判断次第です。

(2) 現金の取扱い

現金については、特別な取扱いとなります。

というのは、本来、99万円以下の現金は、債務者の経済的な更生を助けるために、債務者のもとにとどめて、自由に使ってかまわない法定自由財産と認められているからです(破産法34条3項1号、民事執行法131条3号、民事執行法施行令1条)。

[参考記事]

自由財産とは|自己破産しても財産が残せる!拡張は可能か?

では、「20万円以上の現金を持っていても、99万円以下であれば自由財産なのだから管財事件とはされないのか?」というと、それは違います。

事件を振り分けるのは、破産開始を決定する時点です。その時点では、裁判所は提出された資料から資産を判断するしかありませんが、過少申告で財産を隠匿している危険性もあり、99万円以下の現金しか持っていないとの申告を直ちには信用できません。

このような場合、裁判所は「破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」には該当しないと判断し、資産の有無を破産管財人に調査してもらうのです。

この一定額以上の現金をいくらとするかは、各裁判所毎の裁量であり、地方の実情によって異なります。

大都市圏のように破産管財人となる弁護士を探すことが容易な裁判所では、できるだけ管財事件として慎重な調査を行うべく、金額は低く設定され、事情が逆である地方では、できるだけ同時廃止で処理するべく、一定額の金額は高く設定されます。

大阪地方裁判所では50万円、東京地方裁判所では33万円と設定されています。

つまり大阪地方裁判所では、破産申立時の資料から、金50万円以上の現金を保有していると判断されるときは管財事件に回され、債務者は管財費用を負担する必要があります。

(3) 預貯金の取扱い

預貯金は、法的には現金とは異なり、金融機関に対する債権です(民法666条:金銭の消費寄託債権)。

したがって現金のような法定自由財産ではなく、現金以外の資産、例えば、宝石や中古車と同様の扱いを受け、20万円以上の預貯金があれば管財事件となるのが原則です。

ただし、高額でない「普通預貯金」は、限りなく現金に近い感覚で利用されているのが実態ですから、債務者の経済的更生の観点からは、一定限度、現金と同様に自由財産とするべき要請もあります。

そこで大阪地裁では、①50万円以上の普通預貯金があるとき、②普通預貯金と現金の合計額が50万円を超えるときは管財事件とし、それ以外は普通預貯金があっても、同時廃止事件と扱います。

(4) 免責不許可事由など

浪費やギャンブルなどの免責不許可事由が疑われる場合には、資産の多寡にかかわらず、破産管財人に調査をしてもらうため、裁判官の裁量で管財事件とされる場合があります。これは大阪地裁に限ったことではありません。

[参考記事]

免責不許可事由とは?該当しても裁量免責で自己破産ができる!

4.大阪地裁に少額管財はある?

少額管財」とは、管財事件のうち、破産管財人の労力が少ないことが予想される事件について、少額な予納金で手続を進めてもらえる事件を言います。大量の事件処理が必要だった東京地裁で生まれた運用です。

今では、名称は別として、東京地裁以外にも各地の裁判所において一定の事件で最低20万円程度の予納金で管財事件としてもらえる運用がなされており、むしろ個人破産ではこちらが主流です。

大阪地裁でも、個人の管財事件は、弁護士が申立代理人となっていることを条件に、最低20万円程度の予納金で実施してもらえます。

また、法人の管財事件でも、事業用の賃借物件の明け渡しを終了済みで、従業員を解雇済みであるなど、破産管財人の労力が軽度と予想され、債務額や債権者数が多くない事案では、やはり最低20万円程度の予納金としてもらえる場合があります。

5.即日面接制度はある?

即日面接制度も東京地裁で始まった運用であり、大量の事件を処理するためのものです。

弁護士が申立代理人となっている場合に限り、裁判所に破産申立て書類を持参して受け付けてもらい、そのまま担当裁判官と面接して、簡単な質疑や確認をしたうえで、その日のうちに同時廃止決定を行うという運用です。

大阪地裁では、東京地裁と全く同様の即日面接制度はありませんが、同様の趣旨による「即日審査」制度の運用がなされています。

弁護士が申立代理人となる場合で、債務額が1,000万円未満の場合に限り、申立ての受付をして直ちに書面審査を行い、問題がなければ、翌日に同時廃止決定を行うという運用です。

[参考記事]

自己破産手続きが早く終わる即日面接制度とは?

6.破産手続終了までの期間

破産手続の申立から、手続が終了するまでの期間は、その事件内容により異なります。

短期間で済むであろう個人破産の同時廃止事件の場合、申立てから免責決定まで、おおよそ半年程度でしょう。

管財事件の場合は、破産管財人が資産を処分し、配当する作業に、どの程度の時間がかかるか次第です。
容易に現金化できない資産がある場合や、債権者が多数いる場合などはどうしても時間がかかりますから、短くとも1年程度、規模によっては数年を要する場合も珍しくはありません。

また当然ですが、手続の進行スピードは、その裁判所や破産管財人の忙しさに大きく左右されますから、一概には言えません。

[参考記事]

自己破産の期間の目安|長い?最短は?ケース別に紹介

7.大阪地裁の破産費用

最後に、大阪地裁の破産費用をまとめておきます(2021年12月現在)。

個人破産
(同時廃止事件)
個人破産
(管財事件)
法人破産
(管財事件)
収入印紙 1,500円 1,500円 1,000円
裁判所予納金
(官報広告費)
1万1,859円 1万5,499円 1万4,786円
引継予納金
(管財人報酬)
なし 20万円以上 20万円以上
予納郵券 800円程度 3~4,000円程度 3~4,000円程度

8.まとめ

上に説明したとおり、大阪地裁での破産申立ては、弁護士に依頼するか否か、申立て時点で保有している資産内容によって、破産費用が大きく異なってきます。

破産申立てを検討されている方は、大阪地裁での破産事件に強い当泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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